【感想】『天帝少年 中村朝短編集(1)』少年は別れ、そして旅立つ【マンガ感想・レビュー】追記:中村朝先生からお返事いただきました!
『天帝少年 中村朝短編集(1)』出ました!
心に響く、本当にいい短編作品集でした。最初の『きみが小説家をみつけたら』からはじまって、一気に最後まで読ませる6本の短編が入っています。最後の『天帝少年』が描き下ろしになっています。これもすごくいいです。
中村朝先生の主人公はみな少年であり、好き嫌いにかかわらず別な世界との関わりをもっています。そしていつの日にか、かならず旅立たなくてはいけません。あるときは少年自身が旅立ち、またあるときには他者の旅立ちを見送ります。そこには別れのさみしさと、少年の成長があるのです。
別な世界との接点、これも中村朝先生の作品では繰り返し語られます。異質なものに対する恐怖と興味。そこへ飛び込む勇気。
そんな別れと新世界への旅立ちの予感に満ちた、胸に響く作品でした。オススメです。
ちなみに中村朝先生について色々書いてますが 、『部長が堕ちるマンガ』は例外(ここ笑うところ)。少年も、旅立ちもないです。
以前、当ブログでは中村朝先生のデビュー作の感想も書かせてもらっています。とても楽しくて笑える作品でした。こちらもおすすめ。
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きみが小説家をみつけたら
(『天帝少年 中村朝短編集(1)』より)
小説家と盗みを働く少年のお話。
ラストまで一直線で、勢いのあるいいお話でした。
白件
(『天帝少年 中村朝短編集(1)』より)
件(くだん)とは顔面が人で、身体が牛。内田百閒の小説などでも有名な想像上の動物です。件は予言をすると言われ、予言は必ずあたり、そして予言をした後、件は死ぬと言われています。
本作では、オカイコ様は白い赤子を生みます。その赤子は件と同じ役割を果たすようです。
タイトルは”しろくだん”とでも読むのでしょうか。なんとも読んだ後味のザラリとした短編でした。個人的には民俗学が好きなので、かなり好きな作品です。青山静子さんがかわいい。
トウテツの子
(『天帝少年 中村朝短編集(1)』より)
この短編は特に感動しましたね。饕餮って読めます?トウテツです。
饕餮は古代中国の地理書『山海経』にある中国神話の妖怪です。中国神話の邪神四凶の一角。饕餮の「饕」は財産をむさぼる、「餮」は食物をむさぼるの意味があり、どちらの字もむさぼり食うという意味から、何でも食い尽くす魔獣とされています。 体は牛か羊のようで、人間に似た顔、曲がった角、虎の牙を持ち、爪先はヒヅメではなく人間の爪のようだとされています。
中村朝先生だと饕餮は一体どんな化物になるのでしょうか?
流行り神プロトコル
(『天帝少年 中村朝短編集(1)』より)
これは涙腺に来ました。このシーンの志村くんの驚きが、最後の種明かしとつながります。一度最後まで読んでから、もう一度このページをめくってほしいです。
ちなみに「トマソン」というのは、全く使えない巨人の外国人選手から来ている無用の長物な建築物を指します。赤瀬川原平先生のちくま文庫『超芸術トマソン』が一番入手しやすいかも。ほかにも『トマソン大図鑑』がおもしろいです。
天帝少年
(『天帝少年 中村朝短編集(1)』より)
「この瞬間まで俺はそう思っていた」
by ロッカ・アンコールPP258890-ST
ってことなんですね。
自分は誰かために、あるいはなんのために生きているか、意味はありますか?
生きている理由はありますか?そんなことを考えさせられるお話です。心にしみました。いい話だ。
まとめ
中村朝先生の短編集はすごいよかったです。『部長が堕ちるマンガ』で知っている人も多いと思いますが、ギャグではありませんので作品の雰囲気は違います。ご注意ください。
少年の別れと見知らぬ世界への旅立ち。そして幼い時代からの痛みを伴う成長。その変化のときに感じた感覚を思いださせるような短編集でした。
僕たちはすでに遠くに来て、もう戻ることはできません。ふと昔を振り返って、あの瞬間に一歩踏み出していたんだと思い出すことがあります。その踏み出した一歩を思い出させるような感覚の一冊でした。胸ふるえました。読むべき人に届いてほしい一冊でした。おすすめ。
追記:中村朝先生からお返事いただきました。ありがとうございます。本当にいい作品集でした。これからも頑張ってください!
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— 中村朝@短編集「天帝少年」&「シン・部長が堕ちるマンガ」買ってください。 (@nakamura_asa) September 23, 2020
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