勤務医開業つれづれ日記・3

「このマンガがすごい!2021」参加してます。あふれる”好き”を形に。マンガ感想とか書評を中心にしたブログです。

【感想】『私の神様』夢野つくし (著) いま恋が終わる。数百年、重ならなかった手をつないで。【マンガ感想・レビュー】追記:夢野つくし先生からお返事いただきました!

はじめに

『私の神様』(全2巻)夢野つくし先生の作品を読みました。一話一話が丁寧で美しく、素晴らしい作品でした。二人の恋が切なくて泣けました。

 

神様は、現世では子供の姿で「先生」と呼ばれています。そして18歳の山城かずさは大学生で先生と同居しています。

昔、先生は理(ことわり)を破ってしまったため、呪いがかけられてしまいました。一方、かずさはみずから進んで呪いをその身に受けています。何百年もの二人の長い長い物語が、いま静かに終わろうとしています。

 

二人の物語は夏にはじまり、秋と冬を超え、春を迎えます。桜舞い散る中、二人にはどんな運命が待ち構えているのでしょう。そして、どのような道を進むのでしょうか。

届くべき人に届いてほしい作品です。甘くて、切ないお話です。長文の感想になってしまいましたが、興味を持っていただけましたら幸いです。オススメの作品です。 

 

 

 

 

山城かずさ 

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『私の神様』1巻より)

小さな頃から「先生」のところに足しげく通っています。大学生になって先生と同居することになりました。 

かずさは、実は何百年も前から先生のそばで繰り返し転生しています。しかし時に植物であり、時には動物でした。先生のそばに転生しながら、それを知られると解ける呪いなのです。

 

「先生」 

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『私の神様』1巻より)

先生は、神様です。子供のような変わらぬ姿で、人として永遠に生き続けること。それが神様にかかった呪いです。しかしその呪いが解けることがあることを、かずさは知りません。

きっと、その全て 

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『私の神様』1巻より)

「神様の孫で 娘で 母で 祖母で 友人で そして恋人です」

かずさは8歳ぐらいの頃から先生のもとを訪れています。かずさは成長しますが、先生は成長しません。いつの間にか先生のほうが子供のようになり、かずさが年老いていくと、まるで孫のようになるでしょう。友人であり、恋人である。そんな先生との永遠を、かずさは夢見ています。

ただ、このかずさの夢は最後にはかなわぬものになってしまいます。

いつも、待っていてくれたの?

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『私の神様』1巻より)

 先生の周りを転生し続けるかずさ。以前、先生はなついた猫をかわいがっていました。それはかずさが猫だったときのことです。ある雨の日のあと、猫は来なくなります。先生は縁側で猫をずっと待っていました。先生はずっと、かずさを待っていたのでした。

 イザナミ様

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『私の神様』1巻より)

イザナミ様は二人に呪いをかけた神様です。 「古事記」「日本書紀」の伊邪那岐命(いざなみのみこと)だと思われます。日本を作った国作りの神様であり、黄泉の国(死者の国)の神様でもあります。

イザナミ様は気まぐれで、その行動や考えが人間や先生には理解できないこともあります。最終話では先生はイザナミ様のことが見えなくなってしまいます。

どうしようもなく変わらなく、そして変わっていく

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『私の神様』2巻より)

かずさの文化祭でのワンシーンです。何百年ものあいだ、止まっていた先生の時間は少しずつ動き始めました。二人がその意味に気づくのはもう少しあとです。 

 

そして、届かない 

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『私の神様』2巻より)

第13話「選択」の一場面です。かずさは何度も転生し、先生の幸せを祈っていました。かずさは何度も先生に手を伸ばします。いま先生は少しずつ消えていこうとしています。かずさの気持に報いること無く、かずさのことを知らないまま、静かに消えていこうとしています。

かずさは「選択」を迫られます。このまま静かに最後の一瞬まで先生とともに過ごすか、何百年ものかずさの思いを伝え、自分の呪いを先に解いてしまうか。

個人的な、そして希望的な解釈

以下は、『私の神様』の個人的な解釈です。

本文の核心について勝手に書いておりますので、もし未読の方がいらっしゃいましたら、ぜひ最終話まで読んでから、お読みいただきたいと思っています。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

よろしいでしょうか。

 

 

 

 

 

 

 

二人の呪い

呪い

『私の神様』は何百年にもわたる二人の呪いについてのお話です。まず二人の呪いは何なのでしょう。

 

かずさ: 先生の周りを転生しつづける

先生:  子供の姿のまま永遠に生きる

解呪

実は、二人の呪いは解けてしまうことがあります。第1話「私の神様」で転生し続ける、かずさの呪いが「誰かに知られてしまうと解ける」ことが分かっています。

そして最終話直前の第14話「呪いの在処」で先生の呪いが「昔の想い人より特別な人ができたら解ける」事がわかります。

 

かずさ: 転生を知られると解ける

先生:  現世の人を好きになると解ける

二人はお互いを知らない 

呪いの性質上、お互いの呪いや解呪の条件についてはほとんど知っていません。二人が共通して知っているのは、先生が「子供の姿のまま永遠に生きる」ことだけです。

呪い

かずさ: 先生の周りを転生しつづける ←先生は知らない

先生:  子供の姿のまま永遠に生きる ←かずさは知っている

 

解呪

かずさ: 転生を知られてはいけない ←先生は知らない

先生:  現世の人を好きになってはいけない ←かずさは知らない

 

ふたりはお互いにそばにいながら、本当のことを知りません。本当に切ない物語です。 

もし解呪したら?

もしも呪いが解けると、二人は一体どうなるのでしょう?本文から推測すると、こうなるのではないでしょうか。

かずさ: 先生の呪いが消えるとかずさの呪いも、前世の記憶も消える(P.224)

先生:  少しずつ存在が忘れられるようにいなくなる(P.221) 

→そして先生は苦しまなくなる(P.226)

 

先生と呪い 

先生は現世の人を、前の想い人以上に好きになってはいけません。そこから先生の行動が分かるはずです。先生は昔の想い人(=今のかずさ)より特別な人ができないように、なるべく人と関わらないように距離を保って生きてきたのです。そして想い人がいない世界に生きている意味はなく、何度も死のうとしたのです。しかしそのたびに生き返り、死ぬことはできませんでした。

 

一方、かずさはできる限り先生のそばにいながら、転生していることを「先生」に知られてはいけません。動物や植物に転生して先生のそばにいても、かずさは何もすることができません。たとえ人に転生したとしても、今までの何百年の思いを伝えることができません。繰り返し死のうとする先生をかずさは見てきたのです。

 

先生はずっと想い人を思い続けるため、かずさに対してずっとそっけなく接します。かずさは先生に猛烈にアタックしますが、昔のことを口にすることができません。そんな究極のすれ違いがこの作品の一つのテーマなのです。  

先生とイザナミ様

私たち読者の一つの救いは、イザナミ様の存在です。イザナミ様が先生と話をする重要なシーンがあります。その内容は明らかではありませんが、そこに読者の想像が入るすき間があります。

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『私の神様』2巻より)

第13話「選択」で、イザナミ様が先生の前にはじめて現れます。イザナミ様が先生に言ったように、先生が理(ことわり)を破ったためにイザナミ様がかけた呪いです。最初から最後まで先生の罪の話なのです。

 

ここでイザナミ様は先生に何を告げたのでしょう。その内容はわかりません。

ただ、この出会いが、第14話「呪いの在処」で先生が、かずさにする告白に大きく影響しているのは間違いありません。かずさに対するイザナミ様のつれない態度とは違い、実はずっとイザナミ様は、かずさの味方のようです。

 

イザナミ様は、一体何を先生に告げたのでしょう?

 

1) かずさに、先生自身の本当の呪いのことを伝える

 

まず先生は小説のラストを決めかねているという言い訳をしながら、自分の過去と呪いについて初めて話をします。まず、これはイザナミ様が先生に伝えたことは間違いないでしょう。

 

2) 呪いを解くかどうか、かずさに決めてもらう 

 

かずさが何百年もの間、ずっと献身的に先生の周りにいたことをイザナミ様は知っています。先生の呪いを解くべきかそのままにすべきか、かずさに決めてもらうようにしたに違いありません。先生がそう思ったのか、イザナミ様がそうするように言ったのかはわかりません。

 

3) かずさが転生して、ずっとそばにいたことを暗示させる

 

かずさが転生してずっとそばにいたことを伝えると、呪いは解けてしまいます。おそらく、かずさの転生の記憶は消え、先生が一人だけ残ることでしょう。

伝えなければ、そのまま最後の最後まで二人は一緒にいることができます。でも先生はかずさが何百年も転生を重ねてきたことを知ることはできません。

 

どちらもさみしい。

 

もしかしたら、イザナミ様は第三の道を残してくれたのかもしれません。

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『私の神様』2巻より)

最終話で、先生は繰り返し夢を見ます。多くの動物や植物とかずさが一緒に先生を取り囲んでみている夢です。それはいままでかずさが転生を繰り返してきた生き物たちです。

決して、かずさは「自分は転生してきました」とは言えません。そう言うとかずさの前世の記憶がなくなってしまいます。先生には気づいてほしい。でも自分では「はい」とは言えない。

もしかしたらイザナミ様は、消えゆく先生にそれとなくかずさのことを夢で伝えようとしているのではないでしょうか。 

 

第15話(最終話)「桜舞う」で先生はイザナミ様の姿を見ることができません。もしかしたら先生は第13話「選択」での出会いも覚えていないのかもしれません。ただ、思っているより優しく二人を導いてくれていると信じたいです。

 

先生が消え、全てが消える時

この淡いお話は、いつ消えてもおかしくありません。桜が散るまさにこの瞬間に、先生もかずさの記憶もはかないものになってしまうかもしれません。夏から始まったお話が、季節を一巡りして春に終わろうとしてるのです。

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『私の神様』2巻より)

数百年続いた恋が、いま静かに終わろうとしています。数百年の最後の一年を私達は見ています。 私達が最後のページに見えるのは消えてしまうシーンではなく、二人の最後の楽しい、美しい瞬間なのです。 

まとめ

全2巻を読みおわって、改めて2巻の表紙をみると作中で一番の笑顔の二人がいます。この二人の笑顔をみるだけで、胸が締め付けられるようで、涙が出てきます。

 

読み終えてから、もう一度1巻を読み返すと分かると思いますが、永遠を信じていた二人の他愛もない約束はとうとう守られませんでした。

二人で花火大会に行けませんでした。先生のためにかずさは結局小説家にはなれませんでした。大学を卒業してずっといて、ずっと一緒に暮らして、年老いて先生に介護されるというかずさの夢は夢のままで終わってしまいました。

終わらないはずの数百年の物語が、いま終わりを告げます。

 

何百年ものあいだ、二人は迷子のようにさまよっていました。先生はずっと過去を見ていました。かずさは繰り返し転生して、現在の先生の幸せを願ってやみませんでした。すぐそばにいるのに、すれ違い続ける二人の恋のおはなしは、桜の花のように淡く儚いものでした。それでも二人は、先生がかずさを想い続け、かずさは先生を想い続けたことを読者は知るのです。 

 

「存在していること それ自体が奇跡だ」(最終話)

 

これは先生や、かずさだけでなく、誰にでも言えることです。私たちは現世で多くの出会いと別れを繰り返します。ありふれた日々の思い出を意識すること無く、日常は流れていきます。でも存在すること自体が奇跡なのです。

苦しく、切なく、実りのない恋でした。しかしそうであっても、この恋という名の呪いは存在するだけで「はてがなく幸せなものだった」のです。夢野つくし先生の作った、幸せのカタチは私たち読者の心に届きました。願わくは、読者の皆様にもありふれた日々の幸せを感じてもらえたら幸いです。 

 

 

追記:夢野つくし先生からお返事いただきました。本当にうれしいです。何百年間の間で繰り返された、二人の恋の一番美しい一年間でした。本当に素晴らしい作品をありがとうございました!

 

 

私はあなたの、孫で、娘で、母で、祖母で、友人で、そして恋人です。 とある罪により少年の姿のまま永遠に生き続ける「先生」と、「先生」に幼い頃から思いを寄せる大学生のかずさ。 しかし、かずさ自身もまたある罪を抱えていた。 一日、一日、年下になっていく「先生」。 時間の流れの無情さを、いつかくる別れを、その身に感じながらも「先生」を一途に思い続けるかずさの囁くような物語。 

 

 

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ご参考になりましたら幸いです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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