勤務医開業つれづれ日記・3

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【感想】『ホーキーベカコン3』笹倉 綾人 (著) M系男子に捧げる、理想のドS女王様降臨 谷崎潤一郎『春琴抄』 追記:笹倉綾人先生からお返事いただきました!

笹倉綾人先生の『ホーキーベカコン』が完結しました!

これはとんでもない作品です。谷崎潤一郎の『春琴抄』を読んだことがある人も、読んだことがないけど興味がある人も、ぜひ手にとってほしい。

 

原作『春琴抄』を読んだことがある人ならわかると思いますが、あの句読点の極端に少ない文章から匂い立つ妖艶な雰囲気が 、この本には凝縮されています。ああ、こういう世界に佐助は生きていたんだ、と自分は初めて気づくことができました。

 

この本は読み手を選ぶと思いますが、ハマったらすごいですよね。特にMの男性にすごいおすすめ。春琴は歴史に名を残すようなドS女王様です。読めない人がいっぱいいてもおかしくないですが、読める人なら極上の作品です。

 

届くべき人に届いてほしい、変態のための一冊です。谷崎文学の真髄がここに形になって存在しています。

 

 

 

 

 

 第一巻

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『ホーキーベカコン1』より)

第2話ですでに春琴は裸で、佐助は土下座レベルです。ひょんなことから丁稚の佐助はこいさんの体を拭くことになります。S系な琴(こいさん、春琴)の堂々とした態度と、それに呼応するような佐助のM系男子の感覚がダダ漏れになっています。

 

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『ホーキーベカコン1』より)

フェチすぎな佐助。真面目で、涙もろく、好きなことには徹底的に崇拝するような愛を捧げるM男。佐助にとってこいさんは、もう神様と同じになっています。  

 

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『ホーキーベカコン1』より)

こいさんは稽古で佐助にめちゃくちゃに厳しく当たります。誰の目からも折檻のように思われることでも、こいさんにとっては本気の芸事。十一歳の少女に十五歳の少年がボロクソにされながら芸事を極めていきます。

 

主従であり、芸事の師匠であり、こいさんと佐助は二重の上下関係になります。

佐助は春琴に、意識を失うほど折檻されます。春琴は、年上の人にやりすぎだとたしなめられると、十一歳ではありますが芸事についてどれだけ佐助に情熱を持っているかを言い返します。 あまりの感動で、佐助はその場で初の精通。これはすごすぎる。ちなみにこの記載は谷崎原作にはありません。笹倉先生、天才かよ。

 

第二巻

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『ホーキーベカコン2』より) 

異常な春琴の若さと美貌に周りの人が圧倒されます。 

 

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『ホーキーベカコン2』より) 
さらに春琴の演奏は、まったくの素人ですらも圧倒するような素晴らしいものであり、同業者の鼻をへし折るようなものでした。

 

あまりの美貌、あまりの才能、実力。そして傍若無人な振る舞いに、春琴は多くの敵を知らないうちに作ってしまいます。

 

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『ホーキーベカコン2』より)  

 

第2巻の中心部分はオリジナルストーリーです。この美濃屋久兵衛の息子、利太郎は谷崎『春琴抄』にあり、父が隠居所を作らせたのも記載がありますが、その後の密通シーンは笹倉先生のオリジナルです。これが、すごいのです。

 

「お美事にございまする」

これがすごい。この表現は谷崎原作を超えています。みごとを”見事”ではなく”美事”としているのもスゴイいい。

原作以上に佐助の性格が出てきていますし、原作以上に春琴でした。まったく春琴のことを疑わない佐助と、その佐助の想像をS女的に超えてくる春琴の行動は、読んでいて身震いしました。

 

 

第三巻

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『ホーキーベカコン3』より) 

素晴らしい、圧倒されるような第3巻でした。『ホーキーベカコン』の春琴の描写は、谷崎『春琴抄』を上回っているように思えます。春琴はより苛烈でS女な春琴であり、佐助は春琴だけに下僕のように仕えるM男です。

 

春琴は寝込みをおそわれ、熱湯を浴びて美貌を失います。ここも笹倉先生のオリジナルストーリーが入り、第二巻との整合性もバッチリです。なるほどな、と何度も感服しました。
 

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『ホーキーベカコン3』より) 

これが谷崎原作でも有名なシーンです。佐助が自分の目を潰すのですが、こわいぐらいにリアルです。 

 

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『ホーキーベカコン3』より) 

これな!

原作派としてはこのシーンが一番気になります。『ホーキーベカコン3』ではこの様になっています。

 

「佐助それはほんとうか」

 ↓

「妾はきいてまへんで」

 

でも谷崎原作では春琴が

「佐助、それはほんとうか」

と言ったあと、数分間の沈黙があり、その間に佐助は天にものぼるよう心地になっています。その後に春琴が話した内容はこの様になっています。

よくも決心してくれました嬉しゅう思うぞえ、私は誰の恨みを受けてこのような目に遭うたのか知れぬがほんとうの心を打ち明けるなら今の姿を外ほかの人には見られてもお前にだけは見られとうないそれをようこそ察してくれました。 

(略)

佐助もう何も云やんなと盲人の師弟相擁して泣いた

(谷崎潤一郎『春琴抄』より) 

 

ここから谷崎原作では弱い春琴が垣間見えてきます。「佐助、痛くなかったか?」とか「よく決心してくれました」とか、一緒に泣いたとか。弱気な春琴に対してM男の佐助は、女王様としてはそんな弱音はいたらいけません、的な対応でビシビシへりくだります。

 

でも『ホーキーベカコン』の春琴は立派。すばらしいS女としての人生を全うします。最後まで佐助を使いまわし、一顧だにしません。

 

だからこそ、

「妾(わて)はきいてまへんで」 

という言葉が春琴から出てきたのではないでしょうか。

 

「実際に佐助が目が見えなくなったことはうれしい」 

という気持ちがあるけど

「だが、自分の所有物である佐助が、自分勝手に目を潰すなんて聞いていない」

という立場からの言い方になったのではないでしょうか。

 

春琴の死、そして佐助の死

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『ホーキーベカコン3』より)  

 

「妾(わて)の腰掛けになりなはれ」 

佐助は、春琴から”琴台”という号を受けていますから、まさに名は体を表しています。”春琴の台”として佐助は、春琴亡き後も、21年間長く生きることになります。二人の享年は、

 春琴57歳

 佐助83歳

です。ふたりとも10月14日が命日になっています。

 

春琴の名称

原作では「こいさん」「琴女」「春琴」などと書かれています。『ホーキーベカコン』でも同様になっておりますので一応、混乱しないようにご確認を。

 

こいさん: お嬢さん、という意味です。谷崎潤一郎の名作「細雪」でもおなじように”お嬢さん”という意味で、作品の冒頭に使われています。

琴: 鵙屋(もずや)琴が春琴の本名です。

春琴: 号が春琴です。本名が琴で、師匠が春松検校でしたので、おそらく師匠の春をもらったのだと思います。

光誉春琴恵照禅定尼 :春琴の戒名です。

 

妾:『ホーキーベカコン』では春琴は自分のことを妾、と言っています。”わて”とフリガナがしてあります。ちなみに谷崎原作では妾と書いて”わらわ”とフリガナがされています。

 

ちなみに佐助の号は”琴台”。

もちろん春琴の琴をもらっているのだと思いますが、佐助の号が”琴の台”とは、名前すら春琴の踏み台になっているようで、M系男子の徹底ぶりがうかがわれます。

 

 順市と謎の美女

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『ホーキーベカコン1』より)
 

謎の美女と一緒に、昔の春琴の話を探す小説家の順市。もちろん、順市は谷崎潤一郎だと思います。

 

謎の美女はだれでしょう?谷崎潤一郎は女装小説の『秘密』などを書いております。最終3巻では順市が謎の美女に変装しているシーンがあります。一人二役であり、一人の小説家がおかしな格好をして街に繰り出すのです。それを客観的に見ている本来の自分と、女装し奇怪な行動をしている自分。

 

二人が一人の中に同時に存在することで、順市は春琴と佐助の話に命を吹き込むのです。

 

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『ホーキーベカコン3』より) 

さらに三人がいるのに一人しかいなかった、というシーンがあります(三巻)。つまりは、順市と一緒に話をしていた、謎の美女と鴨沢てる(春琴と佐助のお側についていた)の二人とも想像でしかない、という意味に思われます。

 

まとめ

『ホーキーベカコン』はビリビリくるような傑作でした。特にM系男子は読んだほうがいいです。

 

原作と比較して、ドS女王様の人生の難しさを感じました。SMの場合はどんどんS女の過激さが増して行かないとM男が他の女王様に逃げるといいます。それでいて単なる暴力ではなく、愛情表現の一つとして過激な行動や言動がなくてはいけません。

 

一生、一人の奴隷に対して女王であり続けることの難しさが原作『春琴抄』には出ています。原作『春琴抄』ですら春琴は最後には弱音を吐くようになり、佐助のほうが逆にM系男子としてゴリゴリにへりくだっていきます。

 

その点、この『ホーキーベカコン』はすごいです。佐助は理想的な下僕なM奴隷ですし、それ以上に春琴は神様に匹敵するようなドS女王様でした。一切妥協なし、死んでからも佐助の心を捕まえて離しません。

 

他では味わえないような種類の読後感でした。澁澤龍彦の本を読んだあとのような感じです。正直、『ホーキーベカコン』は原作である谷崎『春琴抄』を超えていると思いました。

 

ものすごい作品でした。かなりオススメです。

 

追記:笹倉綾人先生からお返事いただきました!すごいうれしいです。これからも応援していきたいと思います。頑張ってください!

 

 

 

 

 

ご参考になりましたら幸いです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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