【映画感想】いまは悲しき映画『フラグタイム』「あの時間が本当にあったって、忘れないように」 切なさがつまった良作でした
好きすぎて胸が痛い。
映画『フラグタイム』の感想を書きたいと思います。
前の記事では、映画公開中に制作会社の倒産の報道があり、今回の公開を見逃してしまうと永久にお蔵入りする可能性について書きました。
こちらが前回記事です。
kaigyou-turezure.hatenablog.jp
本記事では映画『フラグタイム』の感想を、切なさと青春のほろ苦さについて書いていきたいと思います。
目次
作品紹介・あらすじ
さと先生による青春恋愛コミック「フラグタイム」(全2巻)のアニメ化です。「あさがおと加瀬さん。」「STEINS;GATE」の佐藤卓哉が監督を務め、「あさがおと加瀬さん。」で作画監督を務めた須藤智子がキャラクターデザインを担当するなど、同じスタッフが多数参加しています。59分の短編映画です。
人付き合いが苦手な高校生の森谷美鈴は、3分間だけ時間を止められる特殊な力を持っていました。ある日、時間を止めている間にクラスで一番の美少女の村上遥のスカートをまくってみた美鈴でしたが、なぜか村上さんには時間停止の力が効いてませんでした。秘密を知られてしまった美鈴は、それ以降、なにかと村上さんの願いを聞くことになります。村上さんに振り回されるうちに、彼女の魅力にひかれていきます。
感想
「それは刹那の夢だが……」一瞬のきらめきと切なさ
この映画には切なさがあふれています。切なさがあふれすぎていて、こぼれ落ちています。
佐藤卓哉監督は「あさがおと加瀬さん」などのアニメ監督を努めています。「あさがおと加瀬さん」はとんでもなく甘々な百合物語でしたから、映画『フラグタイム』もすごい甘い作品になるかと予想していました。
しかし、いい意味でそれは裏切られました。映画『フラグタイム』には甘い恋愛ではなく、成長の痛みを伴う一瞬の夢のような時間が濃縮されていました。
「それは刹那の夢だが……」
映画の冒頭シーンで、時間を止めた森谷さんに村上さんがパンツをめくられているときにつぶやきます。小説のフレーズを読み上げています。
”刹那”とは一瞬のこと。映画『フラグタイム』は一瞬の夢の様なことを映画にしていることを表しています。このフレーズは、さと先生の原作にはありませんでしたが、とてもインパクトのあるセリフでした。
森谷さんの時間をとめる力は徐々に失われていきます。世界から切り離された3分間の二人だけの世界は少しずつ失われていきます。
村上さんはみんなに嫌われるかもしれないのに、時間を止めている間に教室で服を脱いだりいたずらをします。
いつまでも続けられることではありません。この一瞬だけの物語です。その瞬間に二人は出会い、お互いに傷つけ合いながら成長していきます。
映画『フラグタイム』の刹那な感じは、そのままこの作品の外側にも通じてしまいます。完結2014年から5年目にしてのアニメ化、この事実自体が奇跡のようです。しかし公開中の制作会社の破産、劇場限定Blue-rayの販売中止、パンフレットにスタッフロールが載っていないなど、あまりにも悲しい物語があふれています。今を逃すと二度と観れない作品になってしまうかもしれません。
映画『フラグタイム』は刹那な感じ、この瞬間しか味わうことができないほろ苦い思いを詰め込んだ作品になっています。
ひかれあう二人
村上さんはまわりの評価を気にして、まわりの期待に答えようとする優等生です。だれでもみな村上さんのような要素を持っているはずです。他の人によく思われたい。社会的に認められたい。そのために自分の好きなことよりも、まわりが自分に期待されていることを一番に考え、行動しています。
そんな真面目な自分を村上さんは嫌っています。時間を止めている間に変なことをしたり、森谷さんに自分のベッドの下の秘密をわざと見せるようにしたりします。ベッドの下には誰からも好かれようとしている村上さんの本心が隠されていました。
森谷さんは人付き合いが極端に苦手です。他の人との接触があると、時間を止めて逃げてしまいます。でも村上さんの家に行って本心を伝えようとしたり、自分たちが時間を止めてやったことをみんなの前で告白したりします。
つまり森谷さんは決して学校内のヒエラルキーは高くないけど、嫌われてもいいから自分をいつわらずに素直なままで居続ける事ができるのです。でも森谷さんは人付き合いが上手くできず、困ったことがあると時間を止めて逃げてしまう自分のことが嫌いです。
お互いに自己評価は低く、自分のことを素直に受け止められません。そしてお互いに惹かれ合う二人は、相手に自分のないところを見ているのでした。自分を傷つけるだけのほろ苦い青春がここにはありました。
ほろ苦く、そして忘れられない
「あの時間が本当にあったって、忘れないように」
映画のなかで村上さんが言うフレーズです。
特別な二人の時間が失われて、特別な二人の関係が消えて無くなりそうになります。でも村上さんがもっている「誰からも好かれないかもしれない」という漠然とした不安を、森谷さんが「好き」という一言で吹き飛ばします。
原作と同じフィニッシュで、同じフレーズで、心に来る感じが違います。動く絵ってスゴイ。音楽が付くってスゴイ。それを描いていた、さと先生もすごい。
とどめは、エンディング。最後のEvery Little Thingのキャラクターソングカバー「fragile」がすごすぎました。エンディングからエンドロール直前に流れる「fragile」のイントロが流れてきて、(あ、泣くつもりないのに)そう思った瞬間に涙がこぼれてしまいました。
「あの時間が本当にあったって、忘れないように」 そう村上さんはいいました。映画『フラグタイム』は私にとって忘れられない時間、忘れられない映画になりました。
まとめ
59分という短編映画ですが、それを感じさせない内容の濃い、胸に刺さる映画でした。関係者の努力が映画『フラグタイム』という形になって、今の瞬間だけ私達の目の前に姿をあらわしているように思えてなりません。
(映画『フラグタイム』パンフレント最終ページより)
これは購入した映画『フラグタイム』のパンフレントの最終ページです。おそらくここにスタッフロールが載るはずだったんです。真っ白なページがこの作品の痛々しさを物語っています。
「それは刹那の夢だが……」
映画『フラグタイム』自体が刹那の夢のようかもしれませんが、私たちの心にきちんと届きました。幻ではなく、確かにあるのです。村上さんと、森谷さんと、小林さんと、スタッフと、そして観客で作り上げた、切ない時間を私はきっと忘れないでしょう。
そして願わくは、これからも多くの人に観てもらいたい。いまは一人でも多くの人に劇場に足を運んでほしい。そう思わずにはいられない作品でした。
きっとまた思い出す作品です。オススメです。
原作はこちらになります。原作もすごい好きです。
1日3分だけ時間を止められる女子高生・美鈴…。コミュ障な彼女の趣味は時間を止めての人間観察。ある日、クラス一の美少女・村上さんのパンツを覗いたら秘密がバレて…!? 連載時から話題沸騰、衝撃作がコミックス化!!
主題歌です。最高でした。Amazonミュージックに飛びます。
村上遥(CV:宮本侑芽) & 森谷美鈴(CV:伊藤美来) 2019/11/20
ご参考になりましたら幸いです。
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