【感想】『包帯少女期間』須藤佑実 (著) 少女が新しい扉を開ける。それは時につらく、切なくて、泣けた【マンガ感想・レビュー】
須藤佑実先生の新刊 『包帯少女期間』が出ました。
当ブログの8月の漫画ランキングにも書いたし、Amazonレビューにも書いたけど、とにかく須藤佑実先生の絵が好きです。その須藤先生の百合短編集です。なんのご褒美でしょう。破壊力、強すぎるったらありゃしません。実本買って、Kindleも買って、拝む勢いです。
百合作品としては極上モノではないでしょうか。揺れる少女たちの戸惑いと、新しく眼の前に広がるほのかな期待が須藤先生の美しい絵で展開されます。隠れた名作短編集の出現だと思います。
届くべき人に届いてほしい作品です。興味がある方にはすごいおすすめ。
短編集ですので、色々なところの作品が入っています。『包帯少女期間』と『寝屋物語』の2つは以前から単話でAmazon Kindleで発売されています。この2作品、意味深に「アダルト警告」がでていました。迷っていた方にはお買い得です。でも内容はアダルトでは全くありません。おそらく出版のcomicエグゼがアダルト指定なんでしょう。
『包帯少女期間』と『寝屋物語』以外はAvalonが中心で、『卒業旅行』がMeDoからの作品です。どの作品も素晴らしく、ブレはありません。掲載誌の傾向よりも須藤佑実先生の作品という感じが強いです。
包帯少女期間
第一話がタイトルになっているのですが、最初から須藤佑実先生はこの絵で読者を確実にやりに来ています。脳に響くといいますか、絵で殴られるといいますか、とにかく管理人はやられました。とんでもなくイイです。
(『包帯少女期間』より)
夏休みに入って、傷だらけになった神原奈美と、その姿を偶然学校で見つけた林樹理。クラスは同じですがあまり話したこともありませんが、奈美は樹理を自宅に呼びます。田舎で学校もない夏休みに、ふたりだけのちょっぴり特別な遊びがはじまります。
ちょっとだけ新しい自分を自覚する樹理と、学校では見せない表情を樹理にだけ見せる奈美がいいですね。変化がそこまで来ているけど、終わりもすぐそこにあるのがわかります。そんなひと夏のお話です。すごい好きです。
寝屋物語
管理人は据え膳食わずにゴロゴロ添い寝するだけの展開が、理由もなくすごい好きです。
(『包帯少女期間』より)
南たつきはド貧乏で、変なバイト紹介でまりあちゃんのところに派遣されます。マリアちゃんは毒舌大金持ちむすめで、仕事は添い寝です。据え膳というほどのことでもありませんが、まりあちゃんが毒舌を吐きながら、結局たつきになついちゃうのがほほえましいです。
あと、サラッと読み流してしまいそうですが
「おやすみのキスでもする?」
「ばかね、非常識だわ」
という真ん中のフレーズがラストの伏線になっていますのでお見逃しなく。ええお話や。
卒業旅行
管理人は学生恋愛に弱い。とくに教師と生徒の恋愛だと、もうメロメロです。
(『包帯少女期間』より)
「私はそういう役回りなんだなーって思ったの」
高校教師の荒野美月は女子高生とのお付き合いが好き。そんな彼女たちとは卒業と同時に縁が切れてしまいます。
高田町子はそんな生徒たちのうちの一人。でも町子だけが美月先生に卒業後もアプローチしています。温泉に行きながら、二人のすれ違いの会話が続きます。そして美月先生は自分の前を生徒たちの青春が通り過ぎていく寂しさに気づきます。
針と糸
管理人は身長差カップルにめっぽう弱い。飼い主とペット的な感じになるからでしょうか。今回のパターンは小さい方(圭)が飼い主。大きい方(七緒)が犬です。
(『包帯少女期間』より)
圭はファッションデザイナーで、七緒は圭に拾われてパタンナーになっています。小さなときから困ったときにいつも助けてくれる圭は、七緒にとって親友以上の存在です。
この作品の二人が好きですね。小さい方(圭)に、大きい方(七緒)が抱きかかえられたりしたら、小さい子が飼っている大きな犬を見ているみたいで、もうペロペロです。 大きな七緒が小さい圭にブンブン振り回されるのがいいですね。
(『包帯少女期間』より)
ちなみに馬場さんも存在感があっていいですね。登場は数シーンだけですが、管理人は何度も見返してしまいます。
鐘
管理人は運命的な出会いに弱い。どうして弱いのかわからないぐらい弱い。流れ星が当たるような確率で出会ってしまう二人。
はい↑ 運命はじまりました(一人だけ)。かくも運命は残酷なものです。
マキ先輩と安藤エリの二人です。エリは2つ下の大学の後輩です。大学のオープンキャンパスで初めてであって、エリが一目惚れしてしまいます。
マキ先輩は活字中毒でやや変人寄りです。女子女子しているエリの淡い夢を、完膚なきまでに踏み砕いていきます。
(『包帯少女期間』より)
この二人の口元がいいですね。エリちゃんが切なそうな感じなのに、マキ先輩の「?」な口の形が二人の関係を物語っています。
まとめ
はぁ、すごいよかった。須藤佑実先生の『包帯少女期間』は百合作品として極上の絶品ですね。
前作までの『ミッドナイトブルー』『流寓の姉弟』は、いまはもう失われてしまった大事なものに対する切なさにおおわれています。一方、今回の『包帯少女期間』は未来に対する淡い感情が光っている作品です。ほとんどの作品がほのかな期待と希望の雰囲気があります。
少女たちはつらく切ない思いをしながら、何かを失い、そして別な何かを得ます。手にしたものが一体何なのか、まだわかりません。でも同じ方向を向いてくれたひとが横にいます。ここからはじまるはずの物語がみんなには待っているのです。
百合作品としても完成度が非常に高く、百合ファンにもおすすめできます。須藤佑実先生ファンなら絶対に買いです。本当に素晴らしい作品だと思います。おすすめの一冊でした。
『ミッドナイトブルー』の感想も書いています。これも絶品。
kaigyou-turezure.hatenablog.jp
ご参考になりましたら幸いです。
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