勤務医開業つれづれ日記・3

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『Hello World』考察 新たな世界へようこそ、Hello World!【ネタバレ感想】

『Hello World』を見に行きました。ほとんど情報なしに見に行ったのですが、すごい良かったです。心に刺さりました。

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©2019「HELLO WORLD」製作委員会 

 

『天気の子』とは心に刺さる角度が違う感じがします。そして『天気の子』以上に評価が分かれるに違いありません。

 

今回、『Hello World』のポイントを3つにまとめて感想を書いてみたいと思います。ちなみに小説は未読ですので、勘違いしている部分がありましたらご指摘ください。

 

以下、ネタバレを含みますのでご注意ください。 

 

 

 

目次

 

登場人物・あらすじ

堅書 直美

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©2019「HELLO WORLD」製作委員会 

 

一行 瑠璃

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©2019「HELLO WORLD」製作委員会 

 

カタガキ ナオミ(先生)

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©2019「HELLO WORLD」製作委員会 

 

舞台は2027年の京都、いつも自信が持てない高校生、堅書直実くんが主人公です。同級生の一行瑠璃さんは堅物で、まったく余人を寄せ付けません。堅書くんは一行さんのこと「孤高の狼」と言ってました。失礼すぎる。

 

10年後の未来から来た自分「先生」(カタガキナオミ)と出会った堅書くんは、「先生」に3ヶ月で一行さんと恋人同士になると言われます。しかし恋人同士になった直後に落雷で一行さんは死ぬ、と予言されます。堅書くんの恋を成就し、一行さんを救うため、堅書くんは2027年7月3日の落雷の日を目指して、いろいろと頑張ることになるのです。

 

 『Hello World』の入れ子構造(ネスティング)

Hello Worldの由来

まずタイトル『Hello World』とはいったいなんでしょう?

プログラミングを初めて習うときには『Hello World』を画面に表示することから始めます。ヨハネの福音書で「はじめにことばありき」みたいなもんです。

 

C言語の本で使用されたのが最初と言われています。その際は『Hello, World!』でした。C言語に限らず、JavaでもC++でも、どのプログラミングでもお約束で『Hello World』を最初に書きます。

C言語の入門書では、"Hello, World"と出力するプログラムを最初に作るのが定番です。"Hello, World"は、たった7行の単純なプログラムですが、printf()の先では何が行われているのか、main()の前にはいったい何があるのか、考えてみると謎だらけです。本書は、基礎中の基礎である"Hello, World"プログラムを元に、OSと標準ライブラリの仕組みをあらゆる角度からとことん解析します。資料に頼らず、自分の手で調べる方法がわかります。 

 

入れ子構造(ネスティング)

物語構造のイメージとしてはマトリョーシカ人形の入れ子構造(ネスティングあるいはネスト構造)です。

 

『Hello World』の入れ子構造の中身はどうなっているかというと、映画の登場順に、

第一の世界「堅書くん世界」2027年

第二の世界「カタガキ世界」2037年

第三の世界「一行さん世界」

となっています。

 

3つの世界があって、その前提を知らないままに物語が進んでいくことで最後のどんでん返しにつながるのです。この三重の世界構造がすんなり受け入れられると「涙腺崩壊な名作」だと思いますし、ラスト一秒でひっくり返りますが、もしも拒絶反応が起きてしまうと「最後は蛇足」になるし、「よくわからない世界のお話」になってしまうのだと思います。

 

if文のネスティング

『Hello World』というタイトル、そして3重の構造となると、入れ子構造(ネスティングあるいはネスト構造)が個人的には頭に浮かびます。構造化プログラミングでよく使う方式です。

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(Wikipediaより引用) 

ネスティングにはif文やswitch文などいろいろな形式があります。映画『Hello World』では、if文による制御構造に類似するようにスピンオフ作品として「if -勘解由小路三鈴は世界で最初の失恋をするー」があります。

ifで書いているところがプログラミングの『Hello World』に引っ掛けているような気がします。

 

以上から『Hello World』『if』『入れ子構造』と、プログラミングが重要なファクターになっていることが予想されます。

 

三本足の鳥 = 八咫烏 = 第三世界の一行さん? 

序盤から三本足の鳥が単なるマスコットキャラクター(魔女宅のジジ役とか)ではなく、物語を引っ張っていきます。足三本の鳥は八咫烏を意味するものだと思います。

八咫烏は、日本神話において、神武天皇を大和の橿原まで案内したとされており、導きの神として信仰されている。

(Wikipediaより) 

八咫烏は導きの神ですから、第二世界のカタガキ世界にの堅書くんを導きます。では誰が、なんの意図で?それは実は一行さんなのかもしれません。導きの神の象徴である三本足の鳥(=第三世界の一行さん)が第二世界の堅書くんを導いているのです。 

 

堅書くんの右手につくときは神の手(グッドデザイン)と呼ばれる手袋のような形になります。こちらはコラボのMKタクシーのカラスタクシー。足三本ありますね。

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©2019「HELLO WORLD」製作委員会  

 

The Oneとは 

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©2019「HELLO WORLD」製作委員会 

 

堅書くんのリュックのメーカー、気になりませんでしたか?

映画『マトリックス』を観た方は覚えているかもしれませんが、主人公ネオのことを”He is the one.”と表現されていました。「例のやつ」って意味ですが、映画では「救世主」と訳されていました。

つまり堅書くんのリュックのThe Oneは「神」という意味があって、同時に映画『マトリックス』へのオマージュでもあります。

ちなみにマトリックスのネオNeoは、Oneのアナグラムです。ネオNeo=Newと、語順を入れ替えたOneをかけて「新しい神」を意味しています。

堅書くんが「新しい神」になるような伏線を張っているように思えてなりません。

 

アルタラと開闢(かいびゃく)とは

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©2019「HELLO WORLD」製作委員会 

 

この部分は個人的な完全に暴走した予想になってしまいますが、許してください。

アルタラはスペルは"ALLTALE"、つまりすべての物語All Taleを意味します。すべての物語を記録するアルタラは全記録システムです。量子記録装置アルタラは無限の記憶量をもっていると確か映画では言っていたと思います。

 

すべての物語を記録するアルタラが、暴走するデータをリカバリーしようとします。狐面がその象徴です。しかし、千古先生(アルタラセンター長)がそのリカバリー自体を停止することで狐面はいなくなり、アルタラ内部の無限の暴走がはじまります。それを千古先生は”開闢(かいびゃく)”と言っていました。

 

千古先生のいう”開闢”は記憶装置アルタラの中に起きる「新しい世界の始まり」を意味しているのだと思います。リカバリーせずに暴走させたままにする記憶。そこには実際にはなかった記憶、あり得なかった世界が新しく生まれてくるのです。

 

個人的には、一つの世界が新しく一つ生まれ変わる、というよりパラレル・ワールドが大量に生産されるような印象を受けました。自分が映画を観ながらイメージしたのは泡宇宙 (Bubble Universes)理論で、あり得なかった過去が無数にバブルのように発生する世界なのではないでしょうか。

 

映画の中でもすこしグレッグ・イーガンの小説『順列都市』が出てきていましたが、『順列都市』の塵理論で主人公は自分の”コピー”を、コンピュータ内で時間をバラバラにして動かしています。アルタラ内部の無限のデータがバラバラに暴走している姿が目に浮かびます。そのなかに堅書くんが一行さんを救済し、そして一行さんがカタガキ(先生)を救済する世界があるに違いありません。

 

 

 ポスト『君の名は』である『Hello World』

『君の名は』は日本映画史を変えるような映画でした。『Hello World』はポスト『君の名は』の映画であり、『天気の子』と並ぶ『君の名は』以降で企画されたアニメ映画になっています。

 

重厚なSF設定ですが、ボーイ・ミーツ・ガールです。入れ子構造のどんでん返し映画でありながら、純愛の映画です。ツボにはまれば『天気の子』より評価が高くてもいい作品だと思います。

 

理論と構造

映画の構造を楽しんでしまえば勝ち、という映画であることは間違いありません。

SF設定だけで自分は楽しめましたし、グレッグ・イーガンを読んでいる方は堅書くんの本棚見ただけでいい感じになると思います。

入れ子構造のことがあると、なるほどな~と思いながらラストシーンを迎えることができました。それだけでも左脳的に十分にいい映画だと思います。

 

カタガキ(先生)に感情移入

元気な昔の一行さんを見て思わず涙してしまう、10年未来から来たカタガキ(先生)。このシーンだけでホロっと来てしまいました。

涙を流しながらカタガキ(先生)が言う「君が好きだったんだ」で右脳がやられました。未来から来て、先生役で、指導者ぶっているけど、やっぱり一行さんのことが好きで好きでたまらないカタガキ(先生)のこんなセリフをぶっこまれると、ガツンとやられます。

 

一行瑠璃、かわいすぎる問題発生中

ここまで『Hello World』について、いろいろウダウダ言ってきましたが 、この映画は結局、一行瑠璃がかわいいからOK。『Hello World』は一行瑠璃がいればそれでいいです。

京都駅の上で高所恐怖症の伏線も回収しているし、八咫烏がじつは一行さんだったりもします。「やってやりましょう」がとってもいいです。一度は拒否する大人のカタガキ(先生)に、そっとありがとうを告げるシーンも泣かせます。

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©2019「HELLO WORLD」製作委員会  

 

一行瑠璃ちゃんは『天気の子』の陽菜ちゃんとはまったく違うキャラです。陽菜ちゃんは生活感があって、けなげ。社交性があって、自己犠牲をいとわず、みんなのために大人ぶっていたりします。

『Hello World』の一行さんはカワイイ。そしてがんばりやさんですが孤高の狼で、あまり社交性はありません。意外と一途。まあカワイイから何でも許す。映画『Hello World』で一行さんをカワイイと思ったら、もう傑作間違いなしです。

 

当ブログ『天気の子』感想

kaigyou-turezure.hatenablog.jp

 

ポスト『君の名は』世代の『Hello World』 

新しい時代を作り上げた『君の名は』に影響され、よくも悪くもポスト『君の名は』の初世代が『天気の子』や『Hello World』になると思います。

物語の展開のぶっ飛び方や、シネマ構造の大きな変化などいろいろと専門的なことがあるとは思いますが、一番の違いは「いまの世界がぶっ壊れてもいい」という前提に立っているということではないでしょうか。

『君の名は』では過去から未来への自分の心の中は、決して一枚岩のガッチリしたものではなく、現在感じている自分の心すらあやふやな記憶の積み重ねでできていることで成り立っています。彗星で町をふっとばし、生きているか死んでいるかわからないようないくつかの過去の積み重ねが現在につながります。

『天気の子』は生きづらい現代の生活に、おとぎ話のような設定を打ち込んで東京を水没させてしまいます。

本作『Hello World』は現在の世界は仮想空間の記憶であり、情報を改ざんすることで2027年の京都をぶち壊していくのです。

 

主人公たちは、みな相手のために努力し、傷つき、苦悩します。いままでの過去の映画では、主人公たちは葛藤をしながら現代社会の方を選びました。しかしポスト『君の名は』世代は、大きく変化しつつある世界を受け止めるように「変わる世界」を選択します。

映画『Hello World』は純愛で、SFで、グラフィックが秀逸です。でもそれだけではありません。世界をぶち壊し続けながらその変化を受け止め、世界が変わったっていい、という選択肢を僕らの前に提示します。それがポスト『君の名は』世代の「新しいセカイ系」なのではないでしょうか。

 

Hello Worldな音楽

公開前『Hello World』の音楽が楽しみでした。映画予告でOKAMOTO'SOfficial髭男dismが楽曲を提供しているのを知って、楽しみにしていました。

 

さらに本編を見ているとNulbarichの曲も入っていてびっくり。Nulbarichはもっといっぱいのひとに知ってほしいバンドですから、個人的にかなりうれしいです。It's Who We Areとか、すごいかっこいいですよ。

 

OKAMOTO'S 主題歌「新世界」 

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新世界 OKAMOTO'S 

Official髭男dism 主題歌「イエスタデイ」 

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イエスタデイ Official髭男dism 

 

Nulbarich 主題歌「Lost Game」 

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Lost Game Nulbarich 

ヤバいヤバい。この3曲、今聞いたら映画のシーンがフラッシュバックして、また涙ぐんでしまいました。

 

まとめ

『Hello World』は本当にいい映画でした。

心臓に刺さりました。最近の映画は『天気の子』も『Hello World』もすごい良くてハート直撃する率が高いです。

堅書くんはいい味出しているし、カタガキ(先生)に感情移入しちゃうし、一行さんはとんでもなくカワイイです。

映画の構造も入れ子構造で、伏線はりまくりで、じっくり小説読みたくなるような設定ですから、SFを見慣れている人なら絶対にいいと思います。

個人的には『天気の子』と同じぐらいかそれ以上に感動しました。SF要素が強いので観る人を選ぶかもしれませんが、すごいおすすめの一作でした。ぜひ。

 

もう一回観ます。

 

 

『Hello World』の本一覧、作りました!

kaigyou-turezure.hatenablog.jp

 

 

補足:Hello World特報・予告編 

予告編 

 

特報1

 

特報2

 

映画『HELLO WORLD(ハロー・ワールド)』TVCM1 

映画『HELLO WORLD(ハロー・ワールド)』TVCM2 

映画『HELLO WORLD(ハロー・ワールド)』TVCM3 

 

 

ご参考になりましたら幸いです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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