【感想】『ミッドナイトブルー』須藤 佑実 みんな、さよならを告げる間もなく去っていく……。すごく良くて、せつなくて、泣けた【ネタバレ漫画レビュー】
須藤佑実先生の新しい本がでてほんとうに嬉しいです。
前作からずっと気になっている作家さんでしたので、予約して実本買いました。
「卒業しても2年ごとに4人で集まろうよ」そう約束した2日後、彼女は事故で死んでしまった。人生の宝箱に入れたくなる物語たちをあなたへ。
=====
<収録作品>
「箱の中の想い出」
高校教師×元教え子女子。秘密を抱える者同士の再会。
「夢にも見たい」
女子高生は、画面越しの彼に寝ても覚めても夢を見る。
「今夜会う人」
入院中の祖母に会いに帰った父の田舎。そこで出逢い惹かれあったフシギな彼女の話。
「花が咲く日」
植物バカの兄が失踪して8年。兄を忘れない彼女に横恋慕して。
「白い糸」
先輩への恋心をはぐらかされたまま卒業して5年。大雪の日に偶然再会し…。
「ある夫婦の記録」
3年会っていない夫婦。けれど夫は、カメラ越しに妻の全部を見ている。
=====
新世代のストーリーテラー、初短編集。
絵の印刷も黒ではなくて、「ミッドナイトブルー」。
須藤佑実先生の青い線が、なかなか粋です。
タイトル作品「ミッドナイトブルー」
高校3年の天文部の4人組が火星の話をしています。火星は2年ごとに地球の周りを一周します。
火星の最接近のたびにお互い会おう、そう言った、みのるちゃんが2日後に交通事故で亡くなってしまいます。他の3人は2年ごとに同窓会を開きます。ところが蓮見くんだけ、同窓会に会いに来ているみのるちゃんの霊がみえます。
同窓会の2年ごとに、みんな大人になっていきます。みのるちゃんだけは高校3年のまま時間が止まったまま。
ある年の同窓会の時、たまたま蓮見くんだけが早く来て、みのるちゃんと2人きりになりました。ちょっとずつお互いの思い違いなんかをほどいていきます。
みのるちゃんの問いかけに蓮見くんがかみしめるように、自分の言葉をつないでいきます。
ここのシーンがすごく良くて、もう泣きそうです。
「俺は……」
「俺は……」
「俺も……」
もうーーーーーー、このシーンがもう良すぎです。
この口元の感じとか。
みのるちゃん、わかる、わかるよ。
あの頃のほんのちょっとだけの短い時間だけあった、お互いに確かめることができなかった気持ちとか、この世を去るのにさよならを言うこともできなかったこととか、2年ごとに自分を置いてみんなが大人になって変わっていってしまうこととか、いろいろいっぱいあの頃に残っているはずなんだよね。
みのるちゃんは、姿を消してしまいます。
せつないね。
そして、さらに2年後。
蓮見くんが「さすがにもういないか……」といったのは成仏できた、という意味なんでしょう。最後の年はみのるちゃんの姿は蓮見くんも見ることができませんでした。
あああああああ
そう来たか、って感じです。
みのるちゃんは、いままでずっと蓮見くんのことを「蓮見」って名字で呼んでいました。
名前の方は「暁人」です。
でもね、最後の最後に言うんだ、蓮見くんの下の名前を「暁人」って。
きっとみのるちゃんは蓮見くんがうらやましがるような場所にいて、蓮見くんのこと、下の名前で呼んだりしているんでしょうね。
こんな子、一瞬でもそばにいたら、こっちが成仏できないわ!
「箱の中の想い出」
高校教師、石井先生のもとに現れた美女。酔いつぶれて運ばれてきたようですが、全く記憶なし。
実は初担任を持ったときの生徒、岡野さんでした。彼女は整形していて全く雰囲気が変わっていました。
「私、誰がなんと言おうと整形してよかったって思ってます」
ほとんどの人は、整形しても満足ならそれでよかったね、って思うに違いありません。でも、石井先生は個人的な趣味の問題もあって、まあブス専?、昔の岡野さんが気に入っていたのでした。
その一瞬だけその場所にあって、もういまは失われてしまって、二度とは会えない。君が否定していたことも、僕は好きだった、そう告げることもできずに時間だけが流れていきます。
須藤佑実先生の作品は、人との別れとすれちがいを描いてある作品が多いと思います。
幸せにならない結末も多かったりします。きちんとした別れることができずつらかったり、もう自分ではいらない、って思っていたことが実は相手には必要だったり。
お互いに相手のことが好きなのに、触れることができなかったり、キツネだったり、祖母だったり(笑)。みんな、さよならを言う間も無く去っていきます。そして自分だけが取り残されます。あのとき、あの場所にあったはずのものが自分の心の中だけに残り、切なさがつのります。
流寓の姉弟
こちらが須藤 佑実先生の前作。
流寓の姉弟 (ビッグコミックス)
記憶と絆のファンタスティック・ストーリー
二十歳の大学生、大谷 湊は母の葬儀の日に、
迷子の姉弟、夏希と冬樹に出会う。
「大事なのは強く強く想像すること。
そうすれば私達どこにでも行ける」
夏希の目が光ると、そこは――!?
母に捨てられた女子大学生×両親を捜す迷子、
自らの過去へ、記憶と絆を巡る旅が始まる。
二十歳の大学生、大谷 湊は5歳のときに自分を捨てた母が亡くなります。
15年ぶりに出会ったのが母の死んだあと。母の葬儀の日に、迷子の姉弟、夏希ちゃんと冬樹くんに出会います。
この作品には不思議な雰囲気がただよっています。咲き乱れる桜、知っているはずの道を曲がると見知らぬ路地に迷い込んだような、そんな感じがします。
夏希ちゃんと冬樹くんも不思議な子供です。それにはちゃんとしたわけがあって、もともと霊的な家系なのと、夏希ちゃんと冬樹くんのお母さんもお父さんも実は……、というお話です。
夏希ちゃんとと冬樹くんと純子ちゃんです。
純子ちゃんにもなつかれて、大谷さんの家に勝手に出入りされています。
5歳のときに母親に捨てられた大谷さんが、この3人に振り回されながら、母親のことを考えます。母が死んでからでも、ちょっとだけ母親をゆるすことができるような気がします。この本は、ラストの一コマでいつも泣けます。それが読みたいからまた最初から読み直しちゃうんです。
須藤佑実先生の新刊が出て、しかもこんな素晴らしい短編集が手元に来るなんて、こんなに嬉しいことはありません。
『ミッドナイトブルー』、これは素晴らしい作品だと思います。
大当たりでした。
ぜひ、手にしてみてください。
おかざき真里先生も絶賛。
この中の数コマ、『ミッドナイトブルー』で大大大注目の須藤佑実先生に描いてもらったのです🌟『流寓の姉弟』の頃から大好き、この方の描かれる横顔が本当に素敵。記念の一枚✨ pic.twitter.com/PiP3jWaY0j
— おかざき真里 (@cafemari) December 7, 2016
ご参考になりましたら幸いです。
Copyright © 2016-2019 kaigyou-turezure All Rights Reserved.