■ご冥福をお祈りいたします「少年は荒野をめざす」吉野朔実
吉野朔実さんが
お亡くなりになられました。
享年57歳。
わたしの大好きなマンガ家さんでした。
過去形になってしまったんですね……。
吉野朔実さんの代表作である
「少年は荒野をめざす」
について書いてみたいと思います。
少年は荒野をめざす(全6巻完結)
少年は荒野をめざす 1 (マーガレットコミックスDIGITAL)
【あの少年は私 今もあの青い日向で世界の果てを見ている】浅葱中・名物トリオの一人、狩野都。小説を書き、いつも不思議な雰囲気を漂わせる狩野は周囲から浮いてはいるものの、管埜と小林と3人で学校生活を楽しんでいた。しかし時は受験シーズン。否応なしに現実を突きつけられる日々の中、狩野は黄味島陸と出会う。彼は狩野の心に棲み続ける少年にそっくりだった…。
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ぶ〜けのころとは表紙が違いますね。
「少年は荒野をめざす」
「ぶ〜け」にて1985年(昭和60年)9月号から1987年(昭和62年)9月号まで連載。
ブログ管理人による勝手な各巻あらすじをつくってみました。ご参考になりましたら幸いです。
第1巻
5歳の野原に
少年をひとり
おきざりにしてきた今も夢に見る
あれは世界の果てまで
走って行くはずだった真昼やけるような緑と
汗と言う名の夏が
身体にべったりはりついて空には
付け黒子みたいな黒揚げ羽が
幾度も幾度も まばたきしていたあの少年は私
今もあの青い日向で
世界の果てを見ている
物語の最初に
狩野の文章が出てきます。
中学3年の狩野都はこの文章をきっかけに
小説家になります。
狩野は病弱だった兄を5歳のときに失います。
そして少年だった兄の面影を
自分のイメージに重ねたまま
抜け出すことができません。
狩野は黄味島陸に出会います。
自分の兄がそのまま成長したような
イメージを狩野は持ちます。
中学生で文学賞に入選した狩野は
評論家の日夏さんと出会います。
高校受験でストレスを抱えた狩野は
自宅を出て、日夏さんの家に逃げ込みます。
不安定な彼女は黄味島に
ナイフで切りつけたりします。
結局、
狩野は目標の高校に合格していました。
卒業式の後のこのシーンがいつまでも胸に残ります。
お祭りの後の余韻。
まだ言いたいことがあるのに、
まだ言い残していることがあるのに、
みんな別の道に進んでいきます。
高校一年で小説家である狩野は腹が立つのは たいてい それが本当だからだ
なかなか学生生活もうまく馴染めません。
ストーカーから赤い封筒を受け取ったりします。
黄味島と狩野は仲良しだけど、
申し込まれると断らないタイプの黄味島には
女性が複数います。
でも、狩野だけは
「狩野は自分に似すぎていて付き合えない」
と言われて拒絶されてしまいます。
黄味島は狩野を守ったときに
ケガをしてしまいます。
そのため、インターハイには出場することが
できませんでした。
日夏さんは
自分では決められない黄味島に
決断を迫ります。
アラスカから来ます。
黄味島が自分で決められず、
好意を持ってくれた人みんなに
イエスと言ってしまうのも
本当の父親が、今の黄味島家には
存在しないのと同じだったからです。
黄味島はめずらしく父の訪れに
強い拒否反応を起こします。
ずっと付き合っていた鳥子から
別れを告げられた黄味島は
あてもなく家を出ます。
日夏さんのセリフはみんな毒っ気があって好きです。大人だと思って 甘く見るなよ
子供が育った だけなんだからな
狩野の父が狩野につげた言葉です。おまえがいて 本当に 良かったよ
今は それだけだ
自分の子供にはなかなか言えない言葉です。
お互いの中に自分の理想や自己愛を見ていた二人。ふり向くと
私の記憶から
とき放たれた夢の少年は荒野をめざして
走ってゆくのだあの時
そうしようと
したように何処までも
何処までも
そして、二人とも自分ではどうすることもできなく
なって、現実から逃げ出します。
黄味島と一緒に
狩野も家を出ます。
食べて、寝て、遊んで、
生きるだけのために生きて、
そして二人で死ぬことを考えます。
死なずにすんだ二人は
自分の道に進んでいきます。
狩野は女性としての自分を受け入れ、
黄味島は自分の行きたい道へ、
おそらく父と同じパイロットの道へ進みます。
このパーフェクトカップルの
行く末を全て予想していた日夏さんは
二人が大人になる
そのとき、その場所にはいません。
狩野が日夏さんのところに行っても
ただ、置き手紙があるだけでした。
「少年は荒野をめざす」、
この作品は
少女の少年性やジェンダーの確立について
描かれている類稀な作品だと思います。
この作品の特異的なところは
一般的なマンガの
武器を全て捨ててしまっているところです。
ナイフで人を傷つけて、
自殺未遂して、
主人公は本当の意味では
誰とも恋愛関係にならず、
自分のスペックの高さをまったく有効に使わず、
逆に自分や周りを
傷つけるだけの能力のように感じてしまいます。
そして
恋愛の高揚感がないのに
読者は主人公に共感していくのです。
そして
この時期のこどもたちのアイデンティティーや
万能感、そして対極にある無力感、
大人と子供の距離について
解答なく考えさせられた作品はありませんでした。
大抵の作品は
模範的な作者の考える解答が
あるように思えます。
でもこの作品のどこにも
模範的な解答はありません。
この作品の余韻に浸って
改めて吉野朔実さんの偉大さを感じます。
こんな作品が1980年代に出ていたんですから。
あらためて早すぎると
感じずにはいられません。
ご冥福をお祈りいたします。
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