【感想】『怪異と乙女と神隠し(1)』ぬじま (著) すぐ隣りにある、古い怪異をめぐる出会いと別れ【マンガ感想・レビュー】追記:ぬじま先生からお返事いただきました
はじめに
ぬじま先生の新刊が出ています。美女と日本の古典的怪異の組み合わせの、すばらしい作品でした!
書けない小説家の緒川菫子と、書店員の化野蓮、蓮の妹の乙(おと)が遭遇する怪異についてのお話です。万葉集や仙境異聞を題材をもとにお話は進んでいきます。「オカルト」「古典」そして「探偵もの」です。そして、ぬじま先生の絵が良くて、管理人的にはハートにぶっ刺さりました。
緒川さんと化野くんのまわりに起こる怪異と、二人のわかれを予感させる物語です。『怪異と乙女と神隠し』は傑作になる予感がありありです。 かなりオススメの作品です。
現代怪異!謎解き!異世界ミステリー! <これは、数々の怪異をめぐるささやかな友情と別れの物語――> 若返りの怪異“月読の変若水(ツクヨミノヲチミズ)” 絶対に声に出して読んではいけない“異界の歌” 知らない本がいつの間にか書棚に並ぶ“逆万引きの本” 神隠しの実録ルポルタージュ“仙境異聞”・・・ 首都圏のとある中心駅、この町では何かが起きている……。 令和の世に残された最後の迷宮、“現代怪異”のミステリーに、 しがない小説家志望の緒川菫子(おがわ・すみれこ)と、童顔糸目の魔少年・化野 蓮(あだしの・れん)のコンビが挑む! 求められるのはオカルト知識と体力勝負! この町にあふれる数々の怪異を解く先に2人を待つものは……? ミステリアス&バイオレンス&アクション&エロティック現代怪異ロマネスク!!!
緒川菫子(おがわ すみれこ)
15歳で文学賞を受賞した小説家。でも年を追うごとに書けなくなっていきます。それでも文章を書くことは好き。書店で働いています。
化野蓮(あだしの れん)
緒川さんと同じ書店で働く化野くん。彼は緒川さん以外とは話をしません。でも化野くんは「神隠し」で、妹の乙と一緒に現世に迷い込んでいる様子。
化野くんはやればできる子。いつもは細目ですが、目を開くと怪異の本質を見抜くことができます。
化野乙(あだしの おと)
乙ちゃんは蓮の妹で、コオネ女子学院の生徒です。ブラコン入っていて、緒川さんにきつく当たります。怪異のあった徴(しるし)を見ることができます。
兄の蓮は、妹の乙だけは元の世界に戻したい様子です。しかしそもそも”元の世界”とは何を指すのかが不明です。この兄妹は謎だらけです。
二人のささやかな友情と別れ
”ささやかな友情と別れに関する記録だ。”
このページが胸に刺さりました。
いままでのぬじま先生は、明るい感じの愛すべきおバカな主人公がメインの作品が多かったのです。でも『怪異と乙女と神隠し』はちょっと違う。すでに緒川さんと化野くんの二人の別れが定められているのです。
第一怪・逆万引きの本(万葉集)
「天なるや 月日の如く わが思へる
君が日にけに 老ゆらく惜しも」
原文(第十三巻): 天有哉 月日如 吾思有 君之日異 老落惜文
これは万葉集3246番の反歌です。
一つ前の3245番の雑歌は「月の神の持っている若返りの水を取って来て、あなたに差し上げて、若返らせたいなあ」という歌です。
それに対応して3246番の反歌で、「日々、年老いてゆくのが惜しまれることです」と歌っています。これをうたうことで、緒川さんの身に異変が起こります。
第三怪・塵輪鬼『仙境異聞』
平田篤胤『仙境異聞』を引っ張り出すところがすごいです。一部マニアの間で、ここ数年話題になっている作品です。見えない世界を信じていた江戸時代の学者、平田篤胤の岩波文庫は増刷続出しています。
乙ちゃんの学校では怪異が繰り返されています。化野くんと緒川さんはその解明に乗り出します。緒川さんが女子校生になったりして、「逆万引きの本」の設定が生きている感じです。
平田篤胤『仙境異聞・勝五郎再生記聞』についてはかなり興味深い文献です。2018年にはTwitterで話題となって、岩波文庫としては異例の増刷につぐ増刷になっています。平田篤胤は目に見えない世界を信じる「顕幽二元論」を論じています。平田篤胤についていろいろ書きたいことはあるのですが、とりあえずはここらへんを押さえておくと面白いと思います。
2018年に平田篤胤の謎ブーム 文春の原作者インタビュー
謎ブーム どうして「天狗にさらわれた少年の話」が売れているのか? | 文春オンライン
平田篤胤を祀る神社
まとめ
『怪異と乙女と神隠し』は極上の作品になりそうです。万葉集や仙境異聞など、取り上げる題材もどストライクですごい好きです。
ぬじま先生のキャラは相変わらず魅力たっぷりです。過去作は女性キャラがすごい良くて、本作ももちろん緒川さんや乙ちゃんがとてもいい感じです。それに加えて、今回は男性メインキャラの化野くんが深みがあっていい感じになっています。作品に奥行きが出てきて、本当に素晴らしい予感しかありません。
『怪異と乙女と神隠し』はいまから続きが楽しみです。すごいいい作品になりそうです。ぬじま先生、頑張ってください。応援しています!
<ぬじま先生デビュー作、『歌うヘッドフォン娘』の感想書いてます>
kaigyou-turezure.hatenablog.jp
追記:ぬじま先生からお返事いただきました!ありがとうございます。これからも応援したいと思います。
ありがとうございますー!!光栄です!!ご期待に応えられるよう頑張りますので、今後とも何とぞよしなに…!!
— ぬじま (@NJ_Kilroy) August 27, 2020
万葉集は今回、折口信夫『口訳万葉集』をオススメしておきます。
増刷連発の、平田篤胤『仙境異聞』
ご参考になりましたら幸いです。
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