【漫画おすすめ】『しょうもない僕らの恋愛論 (2)』 原 秀則 (著) これはいい作品。不安王、原秀則先生、はじまったな!【漫画感想】
『しょうもない僕らの恋愛論 (2)』 原秀則先生の新刊でました!
漫画ガチ読み勢のいろいろな話題があるわけですが、原秀則先生の話は聞こえてきません。しかし、あえて言おう、
「原秀則先生、はじまったな!」
と。
原秀則先生は、昭和の時代に「冬物語」という受験生のハートを打ちのめすような名作を描かれています。そして平成に入ったばかりのバブル期に「部屋においでよ」という、これまた心えぐる作品を残しています。
原秀則先生は、あの『アオイホノオ』でも何度も取り上げられている(後述)、大ヒットメーカーです。男性読者の心を不安定にする天才、不安王です。
そして令和。ことし7月に『しょうもない僕らの恋愛論 (1)』が出ました。1巻はいい感じ、と思いながら読んでいました。そして今回の2巻。感想は、
キタ! 原秀則先生の時代が再び来ている!
これはいい意味で予想を裏切っています。ヒロインがすごいかわいい。
人生で誰もが経験する負ける切なさや、ほろ苦さ、タイミングの悪さや、行き場のない思いがあふれています。 ふたたび原先生を時代が追いかけるようになるのでは。かなり期待の作品です。
タイトルが『しょうもない僕らの恋愛論』です。”しょうもない”という結果になってしまう”恋愛”ってことでしょうか!?原先生でこのタイトル。タイトルの時点でマズすぎる。しかも”僕ら”ってどの組み合わせ?
「ヒロイン」「時間と年齢」そして「人生の分岐点」という3つの視点で感想を書きたいと思います。
ヒロイン。それは今はいない、好きだった人
主人公は本のデザインをやっている筒見拓郎です。学生時代に組んでいたバンドメンバーの谷村安奈のことが好きでしたが、安奈は別の人と結婚し、急死してしまいます。拓郎は葬儀で安奈の一人娘、くるみに出会います。
つまり、永久不滅の第一ヒロインは安奈です。もう今はいない、そして自分の青春だった安奈。『しょうもない僕らの恋愛論』の一番でかい構図がここにあります。
ヒロインの娘、谷村くるみ
くるみちゃんは母の安奈とそっくりです。くるみちゃんは中身はだいぶ違って積極的です。 昔、安奈と拓郎はお互いに自分の意見をはっきり言わず、結局は離れ離れになってしまいます。くるみちゃんはそんな拓郎に興味を持ちます。
母の趣味が娘の趣味と同じってありそうで、説得力があるのがこわい。キャラクターの絵的には「冬物語」雨宮しおりなんですが、性格は正反対です。
友人以上、恋人未満 森田絵里
第二ヒロインは拓郎と高校時代からの友人。拓郎のことが好きだけど、友人ポジションから抜け出すのがこわい。絵里は自分の気持をごまかしてしまいます。でも、くるみちゃんの出現で絵里にも心境の変化がでてきます。
原先生はキャラをどう転がしてくるかわからんな!前科あるし(褒め言葉)。
絵里のキャラは「冬物語」なら倉橋奈緒子で、「部屋においでよ」なら文さんです。原先生は「冬物語」ではこのキャラを最終のウイナーにしてますが、「部屋においでよ」ではキツイ現実に直面させられるのです。
ヒロインは3人。
母親の安奈はすでに他界して、永久欠番です。
娘のくるみちゃんがとにかくかわいいけど、高校生だし、攻撃的だし危なっかしい。
絵里は気心がしれた仲で、安定感があるけど、同情の意味も含まれているかもしれないし、燃えないかもしれない。
こんな結構まずい状況が『しょうもない僕らの恋愛論』では展開しています。
「時間」だけが静かに通り過ぎてゆく
母の前から姿を消した理由をくるみちゃんに問われて、答えに窮する拓郎。きっと拓郎は若いころなら答えることができなかったはずです。でも時間はゆっくりと流れていき、くるみちゃんにその理由を話すことができるようになるのでした。
もう若くはない
拓郎は本の装丁の仕事をしています。徐々にリテイクが多くなり、若手に仕事が回っていくようになって、自分の感覚がずれているように思えてきます。
(『しょうもない僕らの恋愛論 (2)』 より )
「人生の分岐点」
拓郎たちの最後のライブが終わったら、安奈はいつもの店で待っている、と言っていました。拓郎は店にはいけず、それ以来安奈に会っていません。もし、何かがほんの少しでも違っていれば人生は変わったはずです。
IF, くるみの父
安奈が拓郎の前から去って、結婚したのがこの平尾さん。もしも(IF)拓郎が安奈を捕まえていれば、安奈はこの人とも出会うことなく、くるみちゃんも生まれてはいませんでした。あるいはこのポジションに拓郎がいたはずです。
自分勝手なキャラですが、多分くるみちゃんが積んでいるエンジンはお父さんゆずりです。お母さんの容姿に、お父さんのキャラ。うわっ、めんどくさそう。
父はおとなしいお母さんとはうまく行かずに、くるみちゃんが小さな頃に離婚してしまいます。
(『しょうもない僕らの恋愛論 (2)』 より )
分岐点「その時は、もう二度と会わない」
高校の頃からずっと消えなかった思いを打ち明ける絵里に、拓郎はたじろいでしまいます。 絵里は、ダメなら「もう二度と会わない」と告げます。
拓郎はいったいどうするでしょうか。ここが拓郎の人生の大きな分岐点になります。
(『しょうもない僕らの恋愛論 (2)』 より )
おまけ・『アオイホノオ』で原秀則先生も血祭り
さて、原秀則先生はかなり長い間現役を続けられている先生です。連載デビューはサンデーですから、島本和彦先生と同じ。
島本先生の『アオイホノオ』は相変わらずむさ苦しい熱気でムンムンとしていますが、原秀則先生も案の定、とっつかまってネタにされています。
サンデーでのはじめての連載の『さよなら三角』の取り上げ方がめちゃくちゃに面白いです。
こいつにだけは離されたくないサンデー系新人漫画家!!
勝手に認定して、勝手に嫉妬して、勝手にダメージを受ける。島本先生、熱すぎてむさ苦しくて笑えます。
(『アオイホノオ(7)』島本和彦 (著) より)
アハ体験
ホノオは、原先生の「アハ♡」が、あだち充の「ムフ♡」に対抗しているように思えてなりません。
(『アオイホノオ(7)』島本和彦 (著) より)
学校を描かない(描けない)学園モノ
学校を描くことができないホノオですが、原先生も学校をキチンと描いていないと勝手に解釈して一安心。
(『アオイホノオ(8)』 島本和彦 (著) より)
9巻でも円グラフを使って原秀則先生を解説しています。相変わらず笑えます。
まとめ
『しょうもない僕らの恋愛論 (2)』はかなりいい作品だとおもいます。不安定王、原秀則先生の持ち味が炸裂しています。
「ヒロイン」はすごいカワイイ。
でも原先生はどんな結末を持ってくるのかわかりません。前科あるし(褒め言葉)。くるみちゃんルートいいし、絵里ルートいいけど、「部屋においでよ」みたく、ざっくり別れて終了とか、心にざっくり傷を作るようなバッドエンド展開もありえるから、気が抜けません。
「時間と年齢」が少しずつ人を変えていきます。
若い頃思っていたことと違ってきている自分。社会の立ち位置が少しずつ変わる自分。心の傷も少しずつ癒えるけど、新しい傷も増えていきます。その描写が生々しいです。
「人生の分岐点」として若い頃とは違って多くの分岐を通り過ぎています。
安奈ルートもあったはずなのに変なおっさんに適当に攻略されちゃって、でも一人娘がいたりして。そしていまでもいろいろな分岐点を迎えます。拓郎は一体どこへ進むでしょう。
『しょうもない僕らの恋愛論』というタイトルがマズすぎる。”しょうもない””恋愛”のお話なんですよ、これは。しかも”僕ら”って拓郎x絵里?それとも拓郎xくるみちゃん?
これはめちゃくちゃ名作の予感あり。ガチ漫画読み勢に勧めたい作品です。 かなりおすすめです!
ご参考になりましたら幸いです。
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