【感想】『余命10年』小坂 流加 (著) 拝啓 小坂流加先生「死ぬ準備はできた。だからあとは精一杯生きてみるよ」【小説】
拝啓 小坂流加先生
初めてお手紙書きます。
今回、私は台風の影響で空港で散々な目にあっていました。予定が丸潰れになる状況で、各方面に電話をかけ、便の振替や予定の変更やらをあわただしくしていた時、空港の売店で先生の著書をたまたま見つけました。
(以下、ネタバレあります)
その本のタイトルは私の心に非常に大きなインパクトを与えました。文庫本を購入し、空港の椅子に深く腰掛け、ため息をつきながらスケジュールを再調整しました。本の表紙をチラチラ見ながら。私は本にカバーをかける習慣がありません。
私が先生の本を手に取ったのは、『余命10年』というタイトルにひかれたのが第一の理由です。
(余命10年か……)
私は医師ですが、余命10年と言う病気を当てるのはちょっと難しいです。いくつかの病名が頭に浮かびましたが、結論から先に言うと予想は外れました。
なんだかとっても疲れて自宅に戻り、無駄になった旅行一式をほどいた時に先生の『余命10年』が再び目に飛び込んできました。パラパラとめくって、そのうちにのめり込んで一気に読みきりました。
本書の主人公の20歳の茉莉は、不治の病にかかり、余命10年であると宣告されます。残された人生を茉莉は一生懸命に生きていきます。
本文を読んでいると、病気について関係者にはわかるようないくつもの記述があります。実際に先生が体験されたことだと思うと胸が痛くなります。
臓器名と症状で組み合わされた漢字8文字ほどの羅列 P.6
遺伝性の症例もある P.6
「特定疾患に……」 P.8
最初は肺の血管を広げる薬 P31
鏡の中の体には胸の谷間から腹部にかけてと、左の脇から背中にかけて、日本刀で切りつけたような傷がある。 P.186
平成29年4月現在、特定疾患には330疾病が指定されています。その中で肺の血管を広げる必要がある病気は主に肺動脈性肺高血圧症と慢性血栓塞栓性肺高血圧症の2つ。そして他の記述と合わせると肺動脈性肺高血圧症だと予想されます。
ただし、この病名だと9文字です。
『余命10年』のオリジナルは2007年、つまり平成19年に単行本が出版されております。 以前は原発性肺高血圧症という病名で、厚生労働省のデータを見ると平成19年まで疾患の病名は原発性肺高血圧症だったと思われます(1)。こちらが8文字ですね。現在は肺動脈性肺高血圧症と呼ばれています。でも、あくまで私の予想で先生がそうだと断言しているわけではありません。ご理解ください。
手術の跡についてもおそらくは血栓による緊急手術か、内膜除去手術で胸骨正中切開と第五肋間切開を行なっているかと思います。本当に大変でしたね。
2007年6月に本書は単行本として出版され、大幅に加筆、修正されて2017年5月に文庫本として出版されています。 本書の編集が終了した直後の2017年2月に小坂流加先生はお亡くなりになっています。
出版まであと3ヶ月での急逝。闘病中の最後の努力の結果を見ることなく、先生がこの世を去られたことは読者としてもほんとうに心が痛みます。でも作中で茉莉が自分の単行本を残したように、先生は最後の力を振り絞ってこの作品を残してくれたんですね。このloundraw先生の表紙を見ることはできたのでしょうか?ほんとうにloundraw先生は素晴らしいですよね。
先生が作品の中で書かれた通りに10年。本当は10年生きることも大変な病気です。先生は病名をはっきりと書きたくなかったのかもしれませんが、私個人としては一般には知られていない難病ですので、できたら病名をもっと多くの人に知って欲しい。先生のように精一杯生きてそして作品を残されたことは、同じ病気を持つ人にとって勇気をあたえることではないでしょうか。
これからもっと多くの人が先生の本をとることでしょう。そしていつの日か医学が発達して「昔こういう病気があってみんな本当につらい思いをしたんだけど、いまは治るようになったんだよ」って言えるようになるのが医療関係者の望みです。
先生のペンネームの”ルカ”も聖書では医師と伝えられています。先生の新しい作品をもう読むことができないのはとても残念ですが、読者に本当に素晴らしい作品を残してくれました。ありがとうございます。
ただただ悲しくて、素晴らしくて、泣けてきました。
先生の作品がますます多くの人に読まれ、感動をよぶことを祈念いたします。
敬具
二十歳の茉莉は、数万人に一人という不治の病にかかり、余命が10年であることを知る。笑顔でいなければ周りが追いつめられる。何かをはじめても志半ばで諦めならなくてはならない。未来に対する諦めから死への恐怖は薄れ、淡々とした日々を過ごしていく。そして、何となくはじめた趣味に情熱を注ぎ、恋はしないと心に決める茉莉だったが……。涙よりせつないラブストーリー。
担当挿画書籍・累計発行部数150万部超え! 『君の膵臓をたべたい』『また、同じ夢を見ていた』『記憶屋』『僕は君を殺せない』など、 数々のベストセラーの挿画を担当するloundrawの初作品集。これまで手がけた数多くの書籍用イラストだけでなく、 オリジナルイラストや本書のための描き下ろしを含む50点を超える厳選作品を一挙に収録。 また、巻末では『君の膵臓をたべたい』などのラフ画や、イラストの制作テクニックを紹介。 今最も注目されているイラストレーターの創作の秘密に迫る。
ご参考になりましたら幸いです。