【感想】『春と盆暗』 (アフタヌーンコミックス) 熊倉献 これは、きっと良いボンクラ!【ネタバレ漫画レビュー】
『春と盆暗』(はるとボンクラ)きっとこれ、好きな人はどハマりするだろうな、って短編集出ました。
基本、ボーイミーツガールですけど、登場人物みんなちょっとだけズレてます。だけど一生懸命。だからみんなボンクラ。
紹介文では「さえない男子」、ってなってますけど、女子も含めてみんなボンクラです。だから僕らのハートはぎゅっとつかまれちゃいます。
好きな子ができた。同じ職場の女の子。それも誰もが認める「いい人」キャラ。しかし僕は、彼女のとんでもない“頭の中”を知ってしまう!(『月面と眼窩』) 月刊『アフタヌーン』でデビューを飾った2017年最注目の新鋭、熊倉献(くまくら・こん)待望の初コミックス。さえない男子たちが予想外のドラマをつむぐ、4編の恋愛譚を収録。
ちなみに「盆暗」って、「ボンクラ」です。賭博用語なんですね。知らなかった。
『ぼんくら』の解説 ぼんくらとは盆暗と書く賭博用語で、盆の中のサイコロを見通す能力に暗く、負けてばかりいる人のことをいった。 ここから、ぼんやりして物事がわかっていないさま、間が抜けたさま、更にそういった人を罵る言葉として使われる。 これとは別に「がんばれ」という意味で使われることがある。
ボンクラ(ぼんくら) - 日本語俗語辞書
登場人物が、みんななんかちょっとだけ変で、それをあまり表に出さないようにしているけど、ついつい困った時に出てしまいます。
うまく息が吸えなかったり、手を握ったり閉じたりしたり。グーパンで女の子に殴られたら、男の子はほれちゃうかもしれませんが、逃げるかもしれません。世界が滅びる設定をついつい考えちゃうって、まずいよね。
第1話 月面と眼窩
サヤマさんは今月いっぱいで退職予定。入れ替わりで入ってきたゴトウくんは、ちょっぴり残念です。
「……泣きながら家を飛び出したり、
雨の中誰かを探して走り回ったりしたことありますか?
私はありません」
いやあ、実にいいですね、この会話。「私はありません」ってサヤマさん、全然会話になってねぇ。する気もねぇ。
あさっての方向に会話を投げて、相手に受け取られるはずがない会話のボールが、ゴトウくんのせまいストライクに入っちゃった感じです。そして、肝心のゴトウくんは「あれ?なんなんだ、この暴投?」みたいな感じで、自分のストライクに入ったことすら分かってません。
困っている(はずの)サヤマさんに助け舟を出したゴトウくん。でも、助け舟になっていなかった。
「別に怒ってませんよ」
「……でも」
あんなことしてごめんなさい、のゴトウくんに、大人の対応のサヤマさん。
で、後日。
「当然です」
こうなる。サヤマさんはやっぱり怒っていた。退職してからやっと見せた怒ったサヤマさんの顔がかわいいって、描き方というか、持って行き方ががうまいですよねー。
「カルシウムをとります」
クリームパンの代わりに、僕の手を握ってくださいってことですね!わかります!!
……いや、よく分からねぇ。これが形而上学的に月面に道路標識投げまくってるサヤマさんのストライクなのか。カルシウムがストライクかあ。
照れるとサヤマさんはツンなんだな。最後までツンツンのサヤマさんに、ゴトウくんはデレる。
この二人の距離の遠さがいいですね。全然近くないでやんの。月面スケールで遠い。それなのにようやくお互いのほうに向いたかな、ってぐらいの感じでフィニッシュ。ゴトウくん、がんばれ!サヤマさんの素顔が見えるその日まで!!
第2話 水中都市と中央線
主人公はカラオケで毎回名前を変える女の子。
毎回変えている名前は、どうやら中央線の駅名を順番に書いているようです。どうやらうまく呼吸の出来ない子らしく、つま先立ちしていてつらそうな雰囲気が出ています。水がないのに、おぼれそう。
「仕事か……」
おっと、思わず本音が口から出ちゃいました。そのあと照れるところがかわいい。
「……違いました?
……あれ?
よつや? さん……?」
鉄道オタクのフダくんは、女の子の名前を当てちゃいます。やるな!こういうボーイミーツガールっていいな。鉄オタはおぼれる女の子をきちんとすくい上げられるかな?
第4話 甘党たちの荒野
ホシノくんと大友さん。
大友さんはうれしいとグーパンで人を殴るくせがある甘党の子。芸術科にいそう。
ホシノくんは絵が上手で、友人からお願いされた世界が滅びる設定が頭から離れない。なんか、いい感じの二人だよね。この二人は、ほっておいても幸せになりそう。
という感じの、全4編プラスおまけマンガです。
みんな、ひどいボンクラじゃないです。狂人とか、てんで不適合とかじゃない。ちょっとだけボンクラ。みんな、自分が期待して希望していることとはちょっとだけズレていることを自分でも自覚している良いボンクラです。だから、読んでいてドキドキしたり、かわいいんでしょうね。
わたしはこの作品がすごい好きです。でも、この手の作品ってダメな人も結構いるからなかなか勧めるのがむずかしいです。アフタヌーン系が好きだったり、短編集は大好きよ、っていう人にはかなりおすすめです!
……で、『春と盆暗』の「春」ってなんだ?
試し読みはこちらから。