【感想】『狂気の山脈にて 4 ラヴクラフト傑作集』田辺 剛 (著) 傑作完結!ラヴクラフトの世界基準がここに【マンガ感想・レビュー】
『狂気の山脈にて』4巻出ました!
4巻完結です。世界に通用するレヴェルのすごい作品が出ましたね……。いままでハリウッドですら映画化できず、H・P・ラヴクラフト(以下、HPL)のイメージを具現化できなかったのですが、田辺剛先生がついにやり遂げました。
もしも今後、HPLの映像化やコミック化がなされたら、この作品が基準になるに違いありません。
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HPLに関して田辺剛先生は他に『魔犬』『異世界の色彩』『闇に這う者』があります。どれも素晴らしい作品になっています。
ラヴクラフト(HPL)
クトゥルフ神話
という単語に興味がある方はぜひ一読をお勧めいたします。お勧めです。
表紙デザイン
表紙はこの絵をベースにしているんですね。モノクロの絵がものすごいです。天才版画家ギュスターヴ・ドレの現代版のような素晴らしい作品です。
第十九章 ゲドニー
南極大陸探検隊で大惨事が起きます。この章の”ゲドニー”とはただ一人姿を消した助手です。ゲドニーを追ってダイアーとダンフォースは巨大山脈の向こうに飛びます。そこには古代生命の廃墟がありました。
第二十章 ”なにか”が…
無残な姿のゲドニーに出会ったダイアーとダンフォース。古代都市のさらに内部から奇妙な叫び声を聞きます。悪臭立ち込める内部で彼らが見たものは……。
第二十一章 ショゴス
ダンフォースの制止も聞かず、ダイアーはさらに古代都市の深部を目指します。そこにあるのは、いままで自分たちが目にしてきた”旧支配者”の死体でした。
”旧支配者”すら殺す、人間が目にしてはならないもの、それがショゴスです。ネクロノミコン(魔道書)の作者ですら「ショゴスは存在しなかった」と断言しているような、もっとも忌まわしき生物です。ショゴスは、
テケリ・リ
という独特の言葉、鳴き声をあげ、二人を追い詰めていきます。
第二十二章 凍原
ショゴスのテケリ・リという言葉に追いかけられていく二人。彼らの行く手には一体何が待ち受けているのでしょう?
この章の最後にダンフォードが大きな叫び声をあげます。飛行機を操縦中のダイアーはそれを見ることはできません。それ以降、ダンフォードは正気を失ってしまいます。
第二十三章 狂気の山脈
叫び声をあげた後、ダンフォースは精神の均衡を失ってしまいます。ダイアーは出来事の全てを自分の心の中に封印することを決めます。
最終章 アーカムにて
マサチューセッツ州アーカムで、ダイアーは新しい南極探検隊のことを知ります。本当は止めたいが、どうすることもできません。ダンフォースは精神を病み、彼が最後に一体何を見たのか未だにわかりません。
まとめ
いやはや、すごい作品が出ましたね!
田辺先生の作品は、まるでギュスターヴ・ドレの挿画でダンテ『神曲』の地獄編だけ読んでいるようです。ダンテの『神曲』は地獄篇→煉獄篇→天国篇となっていて救いがあるのですが、HPLの『狂気の山脈にて』は全く救いがありません。
HPLについては2017年11月に出版されたばかりのミシェル・ウエルベックの『H・P・ラヴクラフト:世界と人生に抗って』が最強に面白かったのですが、できたら後日こちらも書評を書きたいと思います。HPLの精神状態の本質を突いていると感じ取れる文章が多くあります。HPLの読者なら思わずうなずいてしまうに違いありません。
大人であること、それは地獄。
(『H・P・ラヴクラフト:世界と人生に抗って』P.43より)
晴れやかな自殺のように物語を始めよ
(『H・P・ラヴクラフト:世界と人生に抗って』P.73より)
ね?ウエルベックって、かっとんでるでしょ!管理人はウエルベックの小説も大好きです。このタイミングでHPLを田辺先生が漫画で具現化し、ウエルベックの論文が日本語訳で出版されたというのは偶然ではないかもしれません。HPLが再評価されるべきタイミングだと思います。
HPLの物語は本当に心の奥に響くような恐怖が満ちています。それを画像として翻訳に成功し具現化した田辺先生のHPLは読むべき。できるなら『ドレの神曲』なんか横に置いたら、なおいいかもしれません。『神曲』には救いがあるから。そして『狂気の山脈にて』をふくめてHPLには救いがない。ミシェル・ウエルベックの『H・P・ラヴクラフト:世界と人生に抗って』はHPLが好きで興味があるごく少人数の人だけにお勧めします。条件さえ合えば、めちゃくちゃハマると思います。
多分、こんな文章のこんな最後まで読んでいる人はHPLやクトゥルフ神話に興味があることでしょう。HPL全集も買え。そこにいま君が必要としているものが、すべてあります。『狂気の山脈にて』はHPL(ラヴクラフト)の入り口として現時点の最適解です。すごいおすすめです!
ご参考になりましたら幸いです。