勤務医開業つれづれ日記・3

「このマンガがすごい!2021」参加してます。あふれる”好き”を形に。マンガ感想とか書評を中心にしたブログです。

【感想】『甘木唯子のツノと愛』 久野 遥子 (著) 二人の小さな世界の終焉。でもそれは言葉にならない。【マンガ感想・レビュー】

久野 遥子先生の『甘木唯子のツノと愛』がでました!

アニメーターとしても大変注目されている久野 遥子先生(2)ですが、漫画家としては大学在学中に久野酸素名義で「えんため大賞」の特別賞を受賞されております(1)。その時の受賞作『IDOL』も今回収録されております。

 

そして卒業後は岩井俊二監督「花とアリス殺人事件」のロトスコープアニメーションのディレクターをされています。最近ではクレヨンしんちゃんの「映画クレヨンしんちゃん 襲来!!宇宙人シリリ」でメインキャラクターのデザインを担当しています。速報でも書かせてもらいましたが(4)、個人的にはアニメーションのCuushe 'Airy Me'がとんでもない印象を残しています(2)。ぜひ見てみてください。やばいですよね、この才能は!

 

そんな久野遥子先生が2017年5月号から7月号の月刊コミックビームに短期集中連載していたのが『甘木唯子のツノと愛』です。すごく読ませる作品でした。個人的に好きです。大注目の作品です!

 

 

アニメーターとしても活躍する若き才能が贈る、待望の初作品集。 「楽園にいたユニコーンは、そのツノで仲間を刺し、ノアの方舟に乗れなかったんです」 母親と離れて暮らす、ツノのある妹と、ツノのない兄。ふたりは秘密基地で、ある“特訓”を続けていた……。 2010年に月刊コミックビームでデビュー後(久野酸素名義)、アニメーターとして活躍している久野遥子の、待望の初漫画作品集。 その圧倒的才能に魅せられる、痛すぎるほど純粋な“少女”たちの物語。

収録作◆『甘木唯子のツノと愛』全3話/『透明人間』/『へび苺』/『IDOL』 

 

 

 

『IDOL』

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収録作品の『IDOL』は多摩美大在学中に「えんため大賞」の特別賞をとった作品です(1)。この時のペンネームは「久野酸素」です。

 

女子高生の真部ちゃんが巨大化して怪獣を駆除します。真部ちゃんは小学校の時の担任の先生にほのかな思いを寄せています。でも先生は自分の方を向いてはくれなくて……。

 

『甘木唯子のツノと愛』 

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タイトル作『甘木唯子のツノと愛』は2017年5月号から7月号の月刊コミックビームに短期集中連載していた作品です。

 

甘木唯子はおでこにツノが生えています。唯子ちゃんは帽子がないと学校に行けません。授業中も帽子をかぶっています。おにいちゃんのひろちゃん(宏喜くん)とけんかしながら、でもいつも一緒にいます。お父さんは家にいるけどあまり仕事をせず、お母さんは姿が見えません。

 

 

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おでこにツノがある唯子ちゃんは牧師さんにユニコーンの話を聞きます。聖書ではノアの方舟にユニコーンは乗れませんでした。自分をユニコーンにダブらせている唯子ちゃんです。

 

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甘木宏喜くんと野重さん

お兄ちゃんの宏喜くんは、いつも唯子ちゃんと一緒です。でも学校では野重さんのことが気になります。野重さんも宏喜くんのことを気にしています。

 

お母さんが写真家の宏喜くんは、自分でも写真を取ります。実は野重さんも写真部で、徐々に二人の交流が始まります。そして唯子ちゃんは取り残されます。

 

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「今はもう」

 

どこにも行けない唯子ちゃん。お母さんの服がたなびくなか、お兄ちゃんと唯子ちゃんの葛藤が続きます。いつのまにか野重さんは視界からいなくなります。二人だけの会話、二人だけの世界。そしてどちらが言ったのか、二人の境目がなくあふれてくる言葉。 

 

大人になれない。取り残されていく。そして母はもうここにはいない。いつも一緒にいた兄も違う世界に向かっていく。自分にはツノがあって、母の服があって、それでも足りない。小さな二人の世界の思い出が残響のように広がります。

 

最終話は漫画好きな人ならなんとなく読み流してしまうかもしれません。逆に映画好きな人なら自分でシーンを再構築して、その素晴らしさに感動すると思います。岩井俊二作品のワンシーンのような最後の場面です。

 

 

 

唯子ちゃんのツノはこれからどうなるのでしょう?お母さんの服をどうするのでしょう?お兄ちゃんは野重さんの所に行くのでしょうか?それとも唯子ちゃんとの世界にとどまるのでしょうか?

 

みんな少しずつ変わっていきます。二人の小さな世界の終焉がきます。でもそれはきっと言葉にできるものではありません。母に対する懐かしさと悲しさ。そして責める気持ち。新しい女性である野重さんの出現と消失。二人だけの世界に対する哀愁と絶望。いろいろな感情が混ざった最終シーンをじっくりと読み込んでみてください。合わない人には全然わからないと思いますが、くる人にはすごいオススメの作品でした!

 

 

 

 

 

 

(1)えんため大賞 TOP > 歴代受賞作品 > 第12回 コミック部門

特別賞 久野酸素

http://www.enterbrain.co.jp/entertainment/awards/12c.html

 

 

(2)久野遥子HP 

kunoyoko.tumblr.com

  

アニメーションのCuushe 'Airy Me'

vimeo.com

 

(3)久野遥子Twitter 

twitter.com

 

(4)当ブログ速報

www.manga-karte.com