勤務医開業つれづれ日記・3

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新型コロナウィルスの検査を希望者全員にしてはいけない理由を図解する【COVID-19】【新型コロナウイルス】【SARS-Cov-2】

 はじめに

2020年3月6日からコロナウイルスのPCR検査が保険適応になりました(1)。では「コロナウイルスのPCR検査が陽性」というのは、どんな意味があるのでしょう?

 

そしてマスコミは「全員検査しろ!」と言ってますが、専門家が希望者全員の検査に反対するのはなぜでしょう?

 

コロナウイルスのPCR検査について、簡単なグラフで図解しながら考えてみたいと思います。

 

実際のPCR検査

現実に近い数字で考えてみましょう。東京都を1,000万人とします。3月7日現在でコロナ陽性患者さんは累計58人です(2)。

 

マスコミでは本当の患者さんが10倍いるという報道もあります(3)。10倍だと東京には580人になりますが、さらに倍近く、コロナ陽性患者さんが1,000人いると仮定します。

 

コロナPCR検査の感度を70%、特異度が90%と仮定します(4)。

みんな心配なので東京都1,000万人の全員がコロナPCR検査をしてみたとしましょう。

 

まず感度とは、本当の病気の患者さんのうち、どれだけ検査で陽性と出るか、という値です。

 東京都に1,000人のコロナ患者さんがいる場合、感度70%の検査をすると700人に陽性が出ます。

 

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コロナ患者さんを検査したら陽性と出る確率70%

 

特異度とは、病気がなくて問題がない人が、どれだけきちんと陰性と出るか、という値です。

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コロナ患者さんじゃない人を検査したら陰性になる確率90%

 

正常な1,000万人に特異度90%の検査をしたら、900万人は陰性と結果が出ます。

 

ここで、残念ながら読者のあなたはコロナ陽性と出た、としましょう。

あなたが本当にコロナに感染している確率はどのくらいでしょう?この検査では実際のコロナ患者さんの70%での検査で陽性で出ますので、

 

7割ぐらいコロナ陽性でしょうか?

 

いいえ、実は違うのです。

 

偽物にかくれてしまう本当の患者さん

1,000万人の中に1,000人の陽性患者さんがいる場合、本当のグラフはこうなります。

 

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本当に陽性700人

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本当は正常だけど、ニセ陽性100万人

 

1,000人の患者さんのうち、700人が陽性になります。

しかし1,000万人検査して900万人が陰性ですから、逆に間違ってニセ陽性になってしまう人が100万人います。

 

つまり700人の本当のコロナ患者さんと、100万人のニセ陽性の人が混ざっている状態になるのです。

 

700 / 1,000,000 = 0.0007(0.07%)

 

つまり、

検査が陽性でもコロナにかかっている確率は0.07%

ということになってしまうのです。

 

東京都民全員にコロナPCR検査をしたら、100万人がニセ陽性、本物の陽性はたったの700人です。

陽性と出た患者さんの中で、本当にコロナにかかっている人は比率として、1万人いて7人だけです(0.07%)。

全員検査で読者の方のPCR検査がコロナ陽性と出ても、実際にはほとんどコロナの患者さんはいません。

 

全例検査は「ウォーリーをさがせ!」

希望者を全員検査する場合だと、本物700人を見つけるためにニセ者100万人が陽性になります。まるで「ウォーリーをさがせ!」の絵のようです。

しかも1,000人の本当のコロナ患者さんのうち300人は、本当はコロナ感染しているのに陰性の結果になります。「ウォーリーをさがせ!」の絵の中に300人は最初からいないのです。探しようがありません。

 

希望者全員にコロナ検査をしろ!

 

というマスコミや医師、一部政党は、

 

医療現場に「ウォーリーをさがせ!」をしろ!

 

といっているのと同じです。

 

コロナウイルスで「ウォーリーをさがせ!」を実践しているのはイタリアと韓国で、ここまでの話でみなさんが予想される通り、医療は崩壊しているようです。

 

コロナPCR検査はどうすればいい?

以上が希望者全員にコロナの検査をしたら、大変なことになってしまうということの説明です。

 

じゃあ対策はないのですか?

 

いいえ、あります。

 

ここにようやく医療関係者が出てくるのです。医療関係者が検査するかどうか、検査の前にふるいにかけるのです。

 

同じくコロナPCR検査の感度を70%、特異度が90%で考えてみます。

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コロナ患者さんを検査したら陽性と出る確率70%

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コロナ患者さんじゃない人を検査したらになる確率90%

= ニセ陽性10%

 

ここで実際にPCR検査する人を、医師や保健所が選抜します。

「この患者さんはコロナ感染症っぽいな」

「熱が4日以上続いて、肺炎っぽい」

「症状が強くて、濃厚接触歴あり」

など、15〜20人に一人ぐらいの確率でコロナ患者さんがいそう、という程度に絞り込んだとします。

 

今の東京都のコロナPCR検査を逆算してみる

実際のコロナ患者さんが80人いて、あやしいけど実はコロナではない正常な患者さんが1,000人だとします。

 

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本当に陽性56人

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本当は正常だけど、間違ってニセ陽性100人

 

感度を70%の検査だと本当のコロナで陽性が出る患者さんは56人です。実際のコロナ患者さんのうち24人は陰性と出ます。

 

80 x 0.7 = 56

 

そして特異度が90%の検査の場合、正常な人1,000人のうち間違ってニセ陽性になる患者さんは100人です。

 

1,000 x 0.1 = 100

 

本当の陽性とニセ陽性、あわせて156人になります。

 

そのうち56人が本物のコロナ患者さんになります。

 

そして24人が検査をすり抜けてしまいます。でも100万人から700人を探すより、ずっと効果的ではないでしょうか。

 

この数字は大雑把ではありますが、今の東京での検査件数に合わせています。

3月7日現在、東京では約1000件の検査で58例の陽性が出ているようです(2)。

 

今回のデータより東京都のデータはちょっと陽性の人数が多いので、1,000人検査して50人以上、つまり15〜20人いて1人の患者さんがいるぐらいに選抜して検査しているのです。

 

いまの東京ぐらいの選抜方法だと、どうにか医療は重症化した患者さんに重点を置いて集中できるわけです。

 

日本では現在このように検査体制が組まれているのです。

 

「ウォーリーをさがせ!」を避けるふるい

専門家や厚生労働省は、検査をセレクトしてふるいにかけています。実際の数字としては、陽性の1,000人から50人ぐらいを見つけて、そこに医療資源を集中投入しよう、としています。

 

厚生労働省は、相談・受診の目安(5)として、

・風邪の症状や37.5℃以上の発熱が4日以上続いている。(解熱剤を飲み続けなければならないときを含みます)

・強いだるさ(倦怠感)や息苦しさ(呼吸困難)がある。

をあげています。

 

これが、第一のふるいです。

もちろん専門家が診て、必要であればこの基準を満たさなくてもPCR検査を行うのは十分ありえます。

 

第二に実際に診察して検査を行い、インフルエンザなど似ている他の疾患を除外します。おそらくインフルエンザの患者さんのほうがコロナ感染症より桁違いに多くいます。加えてインフルエンザだけでなく、マイコプラズマ肺炎などを除外しなくてはいけません。

 

さらに第三、第四としてCT検査や血液検査で本当にコロナ感染が疑わしい場合にだけ、コロナPCR検査を行うのです。

 

まとめ

検査の陽性、陰性は実は分かりづらいものです。

 

「陽性なら絶対に感染している」→ウソです

「陰性なら絶対に大丈夫」→ウソです

 

一般の方は「検査結果は絶対」と思われるかもしれませんが、実はそうとは言いきれません。感度と特異度が理解の邪魔をします。普通の人が大量に検査すればするほど、本当は陽性でない人がニセ陽性で引っかかってしまうのです。

 

ふるいをかけ、あやしい患者さんにだけ検査をすることでニセ陽性に惑わされず、必要としている患者さんに医療を集中できるのです。

 

そのふるいをかけているのが医療機関と保健所なのです。

 

マスコミや一部の医師、政党が、ふるいをかけずに「全例検査しろ!」と言っているのは、算数的には「ニセ陽性100万人から本物700人を探す」というプランにしろ、あるいは医療関係者にリアル「ウォーリーをさがせ!」をしろ、ふるいをぶっ壊せ、と主張しているのと同じ意味です。

 

保険診療が開始されたからといって、希望者全員を検査していたら医療は崩壊します。ぜひ厚生労働省の基準を満たし、医師の判断のもとで適切な検査を行っていただきたいものです。

 

 

※本文で「ニセ陽性」と書いてあるのは偽陽性のことです。

 

※分かりやすくするために、ある程度数学的、医学的な厳密さを犠牲にしています。

例えば「東京都1,000万人」が正常でコロナ感染者が1,000人だとしたら合計1000万1000人ですが、1000万人としています。同様に偽陽性100万人で真陽性700人。陽性合計が100万700人になりますが、今回は100万人としています。気になる方は教科書を開いてください。

またコロナ陰性の患者さんを正常としていますが、当然調子が悪い患者さんですからインフルエンザやその他疾患があると思います。しかしコロナなし=正常とあえて書かせてもらっています。ご理解の程、よろしくお願いいたします。

 

※本ブログ記事の内容は、ふろむだ氏の「人生は、運よりも実力よりも「勘違いさせる力」で決まっている」(6)を参考にさせていただいております。ありがとうございます。

 

参考文献

(1)今日から新型コロナPCR検査が保険適用に PCRの限界を知っておこう

https://news.yahoo.co.jp/byline/kutsunasatoshi/20200306-00166273/

 

(2)東京都 新型コロナ検査データ (2020年3月7日閲覧)

https://stopcovid19.metro.tokyo.lg.jp

 

(3)CNN「日本のコロナ感染者は氷山の一角…実際は10倍」 2020年3月7日

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200307-00000007-cnippou-kr

 

(4)現場の先生はコロナの感度はほぼ70%ぐらいじゃないか、と考えているようです(1)。コロナPCR検査の特異度は、現時点では不明ですので仮に90%とさせていただきました。特異度については歴史のある結核PCR検査が90%以上という記載を参考にさせてもらっています。

日本結核病学会「特異度は90%以上と良好」

https://www.kekkaku.gr.jp/books-basic/pdf/2.pdf

亀田総合病院 感染症科「3連痰の活動性肺結核に対する感度は約70%、特異度は90%以上」

亀田感染症ガイドライン:結核を疑う時とその対応(version 2) - 亀田総合病院 感染症科

 

 

(5)相談・受診の目安 厚生労働省

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00094.html

 

(6)「人生は、運よりも実力よりも「勘違いさせる力」で決まっている」ふろむだ

幸運を引き当てる確率を飛躍的に高くする方法 P.195

 

 

ご参考になりましたら幸いです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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