勤務医開業つれづれ日記・3

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【COVID-19】【新型コロナウイルス】今回の臨時休校ついて、論文的に考察してみた(追記あり)【SARS-Cov-2】

新型コロナウイルスによる臨時休校が決まりました。日本医師会が要望書を提出したようですが(1)、休校についての理論についてはまだはっきりしません。

 

その理論的な根拠はどこにあるのでしょうか? 現時点での休校についての理論を個人的な知識をもとに書いてみたいと思います。

 

目次

 

休校の目的

新型コロナウイルスの対策は、流行のピークを下げ、ピークを後ろにずらすことです。

 

ピークを下げるというのは最大患者数を減らすことです。

ピークを後ろにずらすということは、対策や医療の準備体制を整える時間を得ることになります

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新型コロナウイルスに関するQ&A(一般の方向け)|厚生労働省より引用)

 

休校の目的も対策に準じるはずです。簡単に言うと、

・感染症のピークを下げて

・感染症のピークを遅らせる

というのが臨時休校の目的なのです。

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休校の効果

では新型コロナウイルス対策にとって、休校はどのような意味を持つでしょうか?

休校の効果について一番多い情報はインフルエンザに対する情報です。特にパンデミックを起こした新型インフルエンザについての論文を中心にご紹介したいと思います。

 

2018年にインフルエンザの休校に関するシステマティック・レビューが出ています (2)。

システマティック・レビューとは、いろいろな文献をくまなく調査して、質の高い研究のデータを比較してデータのバイアスを限りなく除き、分析を行ったものです。

この(2)の論文は日本の休校の論文も組み込まれていますので、日本にも参考になると思われます。

 

・早期に学校を閉鎖するほど流行を抑えられる。ピークが減る。

・学校の閉鎖期間が長いほどピークが遅れる。ピーク自体は減らない。

 

この論文をざっくり図で書くとこんな感じになります。

仮に、感染症の流行がこんな感じだとします。

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早めに休校するとこんな感じになります↓

ピークの患者数が減るんですね。

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次に、長期間の休校について考えます。

長期間の休校は長いほどピークがずれますが、ピークの山の高さは変わりません。 

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このように、休校のタイミングが早いほど山は下がり、長期間休校にすると山の高さは変わらないけど、ずれて対策の準備時間ができる、ということです。

 

罹患率と休校

学校の臨時閉鎖は10%の罹患率になるとほとんど効果がなくなります(3)。

10%の罹患率ってどのぐらい?と思うと思いますが、おおまかに言って”季節性インフルと同じぐらい”です。

毎年1000万人の方がインフルになると言われていますから、日本の約1割の方がかかっています。

 

そして可能なら人口の1%に行く前に休校すると効果的だとWHOは数理モデルで紹介しています(4)。

 

ですから、

 

・新型コロナが人口10%、インフルエンザぐらいの流行になったら、休校の効果は薄い

・できれば人口1%までに、日本なら100万人になる前に休校にするべき

 

と言えると思います。つまり感染の人数が少ないほど効果があるのです。

インフルエンザほどの流行になるとダメ。できたらインフルエンザの1/10程度の流行までに休校すると効果的です。

 

休校と基本再生産数

ただし、これはすべてインフルエンザをベースに考えています。しかし新型コロナウイルスはインフルエンザを直接当てはめるわけには行きません。

 

まず基本再生産数(R0)がインフルと新型コロナウイルスは、異なる可能性があります。私が知る限りでは、

 

・基本再生産数が2以下なら休校が有効

 

、という論文が多いようです(2以下(5)、1.9以下(6)、1.8まで(7))。

新型コロナウイルスは現時点で2前後と予想されています。休校でおさえられるか微妙な感じの数字であります。

 

追記:

高山義浩先生のFacebookに新しい日本国内のコロナウイルスのR0が載っておりました。日本国内でのR0は1.7以下かもしれません。その場合、休校は大きな役割を果たすドンピシャの値ですから、感染を制御できる大きな可能性があります。R0が1.0を下回ると、感染は終息に向かいます。

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高山義浩 - 新型コロナウイルスに感染した患者について報告が重なっています。昨日(2月29日)は、宮城県など3つの県で... | Facebook

 

休校の経済的コスト

休校になると当然、経済的に余計なコストが生じます。子供が家にいるので働けなくなる人が出てきます。

 

アメリカの疫学モデルによる検討では、休校は 11%の罹患率低下が期待できるが、人口 1000 人あたりのコストは 270 万米国ドルと非常に高いとされています(8)。

イギリスでの学校閉鎖による収入の減少に関する検討では、16%の労働者が子供の世話をしていて、休校で休職せざるをえず、12 週間 の休校により 0.2-1.0%の GDP の損失が見込まれるとしています(9)。 

 

すでに今回の新型コロナウイルスの休校の影響で、2割の看護師が出勤できない状況が起きています。北海道十勝地区の基幹病院である帯広厚生病院が外来縮小を余儀なくされています(10)。

休校で流行を減らして遅らせる反面、休校は医療資源を減少させる効果もあるのです。

 

休校の問題点

インフルエンザと新型コロナウイルスは当然ですが異なります。

どのように対処するのがベストかは、現時点で誰もわからないのです。

ですから、先手を打って休校を決めたのはある意味英断だと思います。いままで述べたようになにしろ休校は早いに越したことがないのですから。

 

しかし、多くの問題点もあります。 

 

1)休校による経済的問題がでかい

2)インフルと違い、新型コロナウイルスは子供が感染の中心ではない可能性

3)休校を止めると、再び流行が始まる可能性がある(二峰性ピーク)(論文11)

4)休校で医療資源もダメージを受ける

 

きちんとした理論があって、専門家の意見として全国休校が提案されていればいいと思います。専門家の意見がなく、政治家の思いつきだとしたら困ります。

 

後日、この休校の効果を検証しきちんと組織にフィードバックすることが必要です。単に公務員を削減しろ、だけでは駄目です。

 

感染症専門の組織である日本版CDCを立ち上げることが必要不可欠だと思います。

 

追記:

数理モデルの専門家によると、軽症の若い人たちが感染を広げている可能性があります。重症患者は高齢者に集中しますが、軽症の若い人が感染を広げているのです。その意味を考えると、より休校は効果的であると思われます。

ただし論文12にあるように、学校は休みでも学校以外の接触が増えると休校の効果は半減します。休校中は、自宅待機が基本になります。がんばりましょう。

ow.ly

 

まとめ 

新型インフルの論文をもとに休校の効果について考えてみました。主なポイントは以下の3つです。

 

・早ければ早いほど効果があります

・長ければ長いほどピークをずらします

・しかし休校は経済的なダメージも非常に大きいです

 

そして新型コロナウイルスは、当然ですがインフルエンザとは違います。基本再生産数も違いますし、感染の年齢層も違う可能性が高いです。ですから、休校についての効果も未知数です。

 

でも、新しい感染症に対して誰も正解はわからないのです。すこしでも思考を止めることなく、論理的な考えを積み上げて、効果的な次の手を売っていくことが必要です。中国ですら、まだ新型コロナウイルスを抑え込もうとしています。でも日本は諦めていませんか?まだこれからだとは思いませんか?

 

多くの方が個人攻撃をしたりしていますが、敵は人間ではありません。感染症に対して人の叡智を集めるときです。物品の買い占めやパニックなど、バイアスがかかった行動は感染症を利するだけです。パニックにならず、少しでも多くの方の、理性的な対応が試されるときです。

 

(2020.03.11 追記:一部引用文献と内容に不備がありましたので修正しております)

 

 参考文献

 (1)日本医師会 新型コロナウイルス対策に関する要望書

新型コロナウイルス対策に関する要望書  日本医師会 2020年2月27日

http://www.toyama.med.or.jp/wp/wp-content/uploads/2020/02/osirase_iryoukikan_2019_2019ken2_293.pdf

 

1.患者クラスターや地域の流行状況に応じ、学校医と相談のうえ、地域における学校の臨時休業や春休みの弾力的な設定

2.医療現場におけるマスク、手袋、防護具、消毒薬等を含めた医 療資機材の確保と迅速な配備

3.医師の判断による PCR 検査を確実に実施する体制の強化

4.診断キット、治療薬、ワクチンの早期開発への最大限の尽力

5.感染症危機管理体制の強化、並びに健康医療情報を学術的な見地から国民に発信し情報共有ができる「いわゆる日本版 CDC」 の創設 

 

(2)

School closure during novel influenza: A systematic review - ScienceDirect

www.sciencedirect.com

 

(3)

Effectiveness of Interventions to Reduce Contact Rates during a Simulated Influenza Pandemic

www.ncbi.nlm.nih.gov

 

(4)

WHO | Measures in school settings

www.who.int

 

(5)

The Effects of School Closures on Influenza Outbreaks and Pandemics: Systematic Review of Simulation Studies

journals.plos.org

 

(6)

Mitigation strategies for pandemic influenza in the United States | PNAS

www.pnas.org

 

(7)

Analyses of the 1957 (Asian) influenza pandemic in the United Kingdom and the impact of school closures | Epidemiology & Infection | Cambridge Core

www.cambridge.org

 

(8)

Economic evaluation of influenza pandemic mitigation strategies in the us using a stochastic microsimulation transmission model

www.ncbi.nlm.nih.gov

 

(9)

Estimating the costs of school closure for mitigating an influenza pandemic | BMC Public Health | Full Text

bmcpublichealth.biomedcentral.com

 

(10)

新型肺炎で臨時休校 看護師2割の170人出勤できず 帯広厚生病院が一部の診療制限へ(十勝毎日新聞 電子版) - Yahoo!ニュース

headlines.yahoo.co.jp

 

(11)

新型インフルの休校後の二峰性ピークは壱岐市の報告があります。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/kansenshogakuzasshi/86/3/86_274/_pdf/-char/ja

f:id:med2016:20200229124821p:plain

 

(12)

Targeted Social Distancing Designs for Pandemic Influenza - Volume 12, Number 11—November 2006 - Emerging Infectious Diseases journal - CDC

wwwnc.cdc.gov


 

 

ご参考になりましたら幸いです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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