勤務医開業つれづれ日記・3

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【空の青さを知る人よ】二次創作「初恋は実らないという。もちろん例外はある」

映画『空の青さを知る人よ』の二次創作です。嫌いな方はご注意ください。

 

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★正嗣(ツグ)→あおい、がいいですよね。ツグとあおいは、大きくなったらどうなるのでしょう。

★本作は、映画の13年後、あおい31歳、ツグ23歳設定です。この年齢差が尊すぎる。

★映画本編ではしんのと慎之介の差は13年後でした。そのさらに13年後、あおいが慎之介と同じ年齢になったときにどう思うか、妄想してみました。

 

pixivに載せております。 

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「あ~、疲れた!」

 

あおいはバンドの練習が終わって部屋に戻り、思い切りベース用のハードケースをベッドに放り出した。
そしてベッドの上に、勢いよく腰を下ろす。

だがこれは、あおいの部屋ではなくツグの部屋だ。

 

「あおちゃん、おつかれ」

 

全く表情がかわらないツグは、あおいに冷たいお茶の入ったグラスを出した。

 

「ん~!うまい!」

 

ありがとうも言わずに、あおいはのどを鳴らしながらグラスを一気に空ける。

 

 

しんのが消えてから13年。

あおいは31歳になってバンド「空の青」でベースをしていた。
慎之介がギターとボーカルで、相変わらずライブの最後の曲だけは必ず”あかねスペシャル”を使っている。

 

「お、ツグ。勉強頑張っているね。エライ、エライ」

 

「国家試験あるからね」

13年経って、小学生だったツグは大学生になった。

 

「あおいちゃんの苦手な勉強も頑張る」

 

そう、しんのに言い放った小学5年生は、23歳になり東京の大学の薬学部に進学していた。

 

「大学に行くのだけでもエライのに、勉強6年間もやるなんてすごすぎじゃない?」

 

あおいはツグの頭に手をやってガシガシと揺すった。
ツグの勉強の邪魔をしているつもりは全然ないようだ。

 

「あおちゃんが音楽一本でやっていることのほうが、普通にスゴイと思う」

 

ツグは分厚い教科書を開きながら、国家試験の過去問を解いている。

 

「えへへ。スゴイしょ?スゴイって言って。言って、言って」

 

「スゴイ、スゴイ」

 

ツグは勉強しながら無表情に言う。目は教科書から離れない。

 

「ツグ、感情がこもっていない!」

 

ニヤニヤしながら、あおいは言う。

 

「キャラは、もともとだから」

 

ツグは教科書から目を離さずに、黙々と勉強と続けた。

 

あおいは小学校の頃からツグの部屋に入り浸っていた。
ツグが大学に進学して東京に住むようになってから、またあおいは入り浸るようになっていた。
あおいはツグの部屋を、まるで自分の部屋のように使っていた。


「しっかし、ツグは女っ気ないね」

 

ツグの部屋はきれいに整頓されていて、男の子が一人暮らししているには、ものすごいきれいだ。
あおいの部屋はグチャグチャだから、ツグの部屋は居心地が良かった。

 

「あおちゃんが、いつも出入りしてるからじゃない」

 

ツグは教科書から目を離して、あおいの方を向いて言った。

 

「ありゃ、わたしのせいかよ」

 

あおいは笑いながら冗談っぽくいう。

 

「いや、自分のせい」

 

ツグは真面目な顔で言う。
表情の変化は読み取れないのだが、ツグの声に少しだけ力が入っていた。

 
「あおちゃん、オレ、好きな人がいるんだ」

ツグは決心したように、あおいに言った。

 

「えっ?ツグ、そんな話聞いていないよ」

 

あおいは好奇心いっぱいの目で、ツグを見た。
ツグは、全然分かってないな、と思いながら続けた。

 

「初めて話するから」

 

「うん、うん。で、誰?だれだれ?」

 

ツグはあおいの食いつきの良さに、ちょっと驚いた。
あかねは高校の頃は恋バナなんて、全然していなかった。
でも、あかねと慎之介のことは延々とツグに話をするし、意外に恋バナ結構好きなんだ。

 

「あおちゃん」

 

あおいの好奇心いっぱいの表情が消えて、
はて?
といった雰囲気になった。


上手く理解できていないようだ。

 

「オレが好きなのは、あおちゃん」

 

ツグはもう一度はっきりとあおいに言った。

 

「え、えええええっ?」

 

あおいは、顔を真赤にしてのけぞった。
ツグは淡々と続けた。

 

「初恋ってやつ」


「……え?ちょっと、ちょっと待った」

 

色恋沙汰は本当に鈍いあおいだった。
頭の回転が追いつかない。

 

「でも、でもね、私31歳になるし、ツグはまだ23歳で学生だし、ええと、ええと……」

 

あおいは目の焦点が合わずに、しどろもどろに言い始めた。

 

「あかねさんは31で慎之介さんと付き合い始めたから、ちょうど今のあおちゃんと同じ年齢」

ツグは的確に返答する。

 

「10いかない程度の年齢差なんて、今の時代、ほんの誤差でしょ。勉強頑張って、あおちゃんに頼られるような人になろうと思ってる」


ツグが小学生の頃から部屋でゲームしたり、ベース弾いたりしていた。
東京に出てからも気軽にツグの部屋に来ていて、でも変な雰囲気には一度もならなかった。
あかねにとってツグは、空気みたいな感じだった。家族のような存在だった。

 

あおいはとても混乱してしまい、

 

「ちょっと、今日は帰るね」

 

そう言って、あわてて椅子から立ち上がった。


あまりに動揺していたので、ベースを持っていくのも忘れるほどだった。

 

「あおちゃん、ベース忘れたらダメだよ。あとこれ、スコア」

 

ツグは玄関口であおいにベースケースを渡しながら、言った。

 

「ツグ、いまはなんて言ったらいいか……」

あおいはツグの顔を見ることができなかった。靴を履きかけのまま、あわてて玄関を開けた。

 

「うん。あおちゃん、気をつけて」

 

ツグはあおいの背中に向かって言った。
あおいの返事はなく、かすかにうなずくような動作だけが見えた。
そして、ゆっくりとドアは閉まった。

ツグはぼう然としたように椅子に座って、両手で顔を覆った。

 

「失敗、したかな……」

 

深く深呼吸して、自分があおいに言った意味を考えた。
いままでのすべての関係を、ぶち壊してしまったかもしれない。

 

★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ 

 

「あお、元気ないな」

 

スタジオでバンドメンバーと音合せしながら、慎之介はあおいに声をかけた。

 

「慎之介、かぁ」


生気がない、グニャとした返事だった。
とんでもなく話しづらかったが、あおいはゆっくり、慎之介にツグの事情を話した。

 

「なあ、あおい。おまえ高校の頃のこと覚えているか」

 

「突然、なに?」

 

「しんのに告白したときのこと」

 

「えええっ?」

 

慎之介はこの場面で、しんの話をするのか。
自分の13年前の告白の話を、慎之介に言われるのか。

あれは初恋だったのに。
淡く消えた、しんのに対するあの気持を、ここで慎之介に話しされるのか。

 

「お前がしんのにした告白を、13年たった今、ツグにされているんだ」

 

あおいは、慎之介の言葉にハッとした。

 

そうだ。

 

あのとき自分は、しんのに対して心のまま真っ直ぐに告白した。
それを、しんのは一生懸命受け止めてくれた。

なのに、自分は……。
自分のことばっかりで、ツグのことを受け止められていない。

 

「あお、ちゃんとしろよ。きっとツグだって、お前以上に悩んでたはずだから」

 

「うん。そうなんだね」

 

慎之介の言葉に、目が覚めるような思いだった。
どんなに迷っても、自分の言葉でツグに答えなくちゃいけない。


★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ 


夜になり、あたりが暗くなってからツグが大学から戻ると、部屋の前の廊下にはあおいがいた。

 

「……あおちゃん」


すでにツグは父のみちんこの背も、あおいの背も超えていた。
あおいは見上げるように、ツグのことを見た。

 

こんなにツグって、大きかったっけ?緊張感で心臓がドキドキいっている。

 

「わたしはあんまり頭も良くないし、音楽バカだし、ツグより8歳年上だし……」

 

「あおちゃん、中入ろうか」

 

あおいは、部屋には入らずそのまま話を続けた。

 

「ツグのこと、空気みたいに思えて、急に言われてどうしたらいいかわからなくなって」

 

大きく息をして、ツグの目を見た。

 

「でも、ツグと一緒にいるのは好き。本当に安心できるし、私の苦手なことできるし、頼りがいある」

 

あおいの目に涙がたまってくる。

 

「変な言い方かもしれないけど、ツグは弟っていうよりお兄ちゃんかお父さんみたい」

 

鼻をすすりながら、あおいは今まであかねにも言ったことがないことをツグに言う。

 

「私はお父さんのことあまり覚えてないけど、ああ、これが家庭なのかな、家族なのかなって思う」

 

ポロポロと涙が出てくるけど、その涙をふきもせず、あおいは言う。

 

「ツグのことが好き。でももっと好きになるから、だから、だから少しずつ……」

 

ツグは、そっとあおいの手をとって、部屋のドアを開けた。

 

「あおちゃん、ありがとう。部屋、入ろう」

 


あおいには、しんのがすぐそばで笑っているような気がした。

 

泣くな、あお。

 

18歳のあの時も、いまも、自分の心にウソはないんだろ。


それで十分だ。

 

前に進めよ、目玉スター。

 

 

あおいは部屋に入っても号泣していた。

 

ツグは横に座って、あおいの話をただずっと聞いていた。
あおいの細い手を握ったまま、あおいの体温を感じていた。
手にこぼれ落ちるあおいの涙の温度を感じていた。
それでも、握った手をはなさなかった。

 

ずっとずっと、離さなかった。

 

 


<了>

 

 

 

 

ご参考になりましたら幸いです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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