勤務医開業つれづれ日記・3

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【空の青さを知る人よ】二次創作「夜が明ける前 The darkest hour is that before the dawn.」

映画『空の青さを知る人よ』の二次創作です。嫌いな方はご注意ください。

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今回は映画の中盤で、しんのxあおいのラブシーンが少なすぎて妄想してみました。

 

www.pixiv.net

 

前作同様、二次創作が嫌いな方はご注意ください。

kaigyou-turezure.hatenablog.jp

 

★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★

 

「なあ、あおい。俺って何だと思う?」

 

暗いお堂でしゃがんでいるしんのは、うつむきながらつぶやいた。

 

「なにって?生き霊?」

 

あおいは練習を止めて、ベースのヘッドに手をおいて不思議そうに答えた。

 

「はー、そうだよな。やっぱ、そう思うよな」

 

しんのは椅子においたままのギターを振り返って見た。バイトで金をためて買った”あかねスペシャル”は沈黙している。弦は錆びていて、あかねと一緒に買ったときにはあれほどうれしかったはずのギターが、しんのにはみすぼらしく見えた。

 

「31歳の俺ってさ、なんで俺を置いていったんだろう」

 

「あんた、置いていかれたの?」

 

あおいは気のない返事をしながら、置いていかれた、というしんのの言葉にドキッとした。

たぶん、あおいが本当に怖いのは置いて行かれることだ。

 

両親にも、慎之介にも置いていかれた。そしてたった一人の家族である、あかねに置いて行かれたら、自分は一体どうなっちゃうんだろう。もしも慎之介とあかねがよりを戻したら、自分を置いていくんだろうか。

 

そんなことになるぐらいなら、あかねが腹の出ている正道とくっついたほうが、まだましかも。少なくともあかねは出ていかずに、地元に残ってくれる。

 

でもそんなことばっか考えている自分がイヤだ。だから自分が先にここを出るんだ。

 

「置いていかれたってのは、なんとなくかな。でもわかるだろ、自分のことって」

 

あおいは、する必要のないチューニングの手を止めてしんのを見た。真剣な目をしている。ふざけているときの、しんのじゃなかった。

 

「夢、叶うんだな」


手をグーパーしながらしんのは言う。あおいは気のないふりをしながら、しんのの表情を見る。意外とまつげが長い。

 

だめだ、これ。好きになったらダメなやつだ。

 

「でも、俺と”あかねスペシャル”を置いて行かなきゃ、ダメだったのかよ」

 

「じゃあさ、しんのはここを出たい?

もしも、しんのが慎之介にもどらないで、私と一緒に東京に行けたら……」

 

こんなこと、しんのに言いたいわけじゃない。こんな言い方はまるで、しんののことが好きみたいじゃないか。

 

「おっと、ストップ」

 

しんのは立ち上がって手のひらをあおいに向けた。あおいはその手を見て思う。男の人の、大きな手だ。爪だけはきれいにそろえてあるし。やっぱり、このころからミュージシャンになる気はウソじゃなかったんだな。

 

「多分、俺は自分の心を半分ここに置いて東京に行っちまったんだ。きっと行きたくない気持ちもあったんだろうな。正直、夢に向かっていくのはこわいし、東京にあかねは一緒に来てくれないし」

 

しんのはさみしそうに、お堂の外を見る。月がキレイに見えている。

 

「でもな、俺は納得できなきゃダメなんだ。このままじゃ、ダメなんだ」

 

しんのの直線的な感情が、あおいにビリビリ響いてくる。

 

あおいは泣きそうだった。だって、しんのの考えていることに、これっぽっちもあおいのことは入っていなかった。それなのに引っ張られる。

 

しんのだって、慎之介に置いていかれたのに、心はまっすぐなんだ。あおいは、下唇をかんだ。


「なんとなくわかるんだ。”あかねスペシャル”から音が出たら、あのギターからすげえいい音がでたら、多分、納得できる気がする」

 

「それって……、しんのがいなくなるってこと?」

 

慎之介と、しんのが納得したら、しんのと慎之介は一緒になっちゃうの?しんのは、成仏して消えちゃう?


「さあな。俺にだってわかんないよ。まだ今は”あかねスペシャル”にふれるのがこわいんだ。俺も”あかねスペシャル”も置いてけぼりだったからな」

 

あおいは、ベースを肩から外して、しんのを抱きしめた。

 

中途半端に両手をあげたまま、しんのは突然のことに驚いて固まっている。

 

「お、おい、あおい!?」

 

「今だけ動くな。小さいあおいと同じだと思え」

 

しんのは、ゆっくりと手をおろし、右手をあおいの頭にのせた。小さな子供をあやすように頭をなでた。

 

あおいは、しんのの背中に回した手に力を入れた。しんのの体は細いのに、しっかりしている。男の人の体なんだな、って思った。胸からしんののにおいがした。

 

慎之介に置いていかれたしんのは、次にわたしを置いて行く。

 

「私だって、置いてけぼりはいやだよ」

「そうだな。やだな、置いてけぼりは」

 

あおいは、しんのの体温を感じていた。しんのは優しい。ゆっくりと頭をなでていてくれる。しんのの声は、抱きしめている私の体を通して響いてくる。

 

低音で体の中に広がる、この声が好き。頭をなでている、ギターをかき鳴らすきれいな指が好き。しんのの周りの空気や、においや、しんのの体の重さがあおいの世界の中に広がっていくのを感じた。

 

もう何かがいっぱいあふれてしまって、こぼれおちてしまって……。

 

あおいは気がついたら、しんののくちびるに自分のくちびるを重ねていた。

 

我に返ったあおいはくちびるを離して、とんでもなく赤面しながら、しんのを見上げた。


しんのも耳まで真っ赤にして、驚きながら恥ずかしい目であおいを見ていた。

 

「小さいあおいがやったと思え、バカ!」

 

床においたベースをひったくるように抱えあげて、あおいはお堂を飛び出した。

 

「おい、あお!」

 

お堂から出られないしんのが、叫んでいる。

 

あお、って呼ぶな。

 

そんな子供みたいな呼び方するな。

 

そんな優しい声で、わたしの名前を呼ぶな。

 

私を置いていくやつが、そんなに私に優しくするな……。

 

 

ベースを抱えながら暗い夜道をトボトボ歩く。街灯がぼんやりと道路を照らしている。あかねが待つ家の明かりを見て、ほっと気が抜けたように思えた。それから、あおいはとんでもない罪悪感におそわれた。

 

「何やってんだ、あたしは……」

 

自分は、あかねを裏切っている。
でも、じゃあ、わたしの気持はどこに行ったらいい?

あおいは、そっと自分のくちびるを指でさわってみた。しんのと重なった余韻だけが残っていた。

 

<了>

 

 

 

 

 

 

 

 

ご参考になりましたら幸いです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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