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【舌癌】堀ちえみさん 誰も書かない口内炎・レーザー治療の功罪【ステージ4】

(2019.02.22更新)

 

 

はじめに

先日、堀ちえみさんが舌癌であると発表されました。一日も早いご回復をお祈りしております。

 

医学的にいろいろお伝えしたいことも、疑問点もさまざまありますのでブログ記事にしてみたいと思います。 

 

最大の疑問点は、

 

・なぜ歯科医師は口内炎(じつは癌)にレーザーを当て続けたのか

・なぜ歯科医師の対応に批判が出ないのか

・なぜステージ4になったのか

 

ということです。

 

医学的な見地から考えてみたいと思います。『頭頸部癌診療ガイドライン 2018年版』を基本に検討しますが、後述のように新しい本であり論文や治療施設の多くのデータはこれより前のガイドラインに則っていることが多いためご注意ください。

 

追記:

舌癌の専門は耳鼻咽喉科あるいは口腔外科です。耳鼻咽喉科は頭頸部外科と呼ばれていることもあります。

 

 

 

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  (堀ちえみさんのオフィシャルブログより) 

ameblo.jp

 

 

目次

 

堀ちえみさんの舌癌について

まず堀ちえみさんのブログの内容から舌癌について検討したいと思います。 

私、堀ちえみは、 口腔癌(左舌扁平上皮癌)と、 診断されました。 いわゆる舌癌です。 ステージは4です。

  (堀ちえみさんのオフィシャルブログより) 

 

組織型とステージ

口腔癌の組織型は扁平上皮癌が最も多いです。

ステージ分類ですが、2018年2月に発売されたばかりの癌取扱い規約に修正がありますので(1)を参照ください。

 

ステージ4はT4a以上、あるいはN2以上、あるいはM1のいずれかです。

Tは腫瘍そのものの大きさが大きいことを表します。

Nはリンパ節転移の広がりを示します。

Mは遠隔転移です。

 

つまりは腫瘍が大きいか、リンパ節が広がっているか、遠隔転移があるか、という状況がステージ4です。

 

T: 後の記述で手術で舌を半分以上切除、とありますからT3以上、おそらくT4だと思います。

N: リンパ節は同じ左側のリンパ節があるようですのでN1以上です。反対側にはないようですのでN2b以下だと思いますが、N3a(6cm以上の大きさ)の可能性はあります。

M: 遠隔転移があると手術ができませんのでおそらくM0だと思います。

 

最初は昨年夏頃に、 舌の裏側に小さい口内炎ができました。 

  (堀ちえみさんのオフィシャルブログより)  

 

舌の裏側に小さな口内炎が初発症状だったようです。

 

口内炎としての治療

治りが遅いので、 病院で診ていただきまして、 その時は塗り薬や貼り薬、 ビタミン剤などを処方して貰いました。

  (堀ちえみさんのオフィシャルブログより)  

 

口内炎の治療としては、

 

塗り薬(・オルテクサー・アフタゾロン・デキサメタゾン・デキサルチン・デルゾン後発品など。ちなみにケナログは生産終了のため販売中止になっています)

貼り薬(・アフタシール・アフタッチ・ワプロン)

ビタミン剤(ビタミンB群など)

 

が非常に一般的です。この治療としては特に問題ないと思われます。

 

それでも治らず、 そのうちに、 舌の裏側だけではなく、 左の側面にも、 固いしこりができてしまいました。

  (堀ちえみさんのオフィシャルブログより) 

 

舌癌が最も多くできやすいのは舌縁です。間違って舌をかんだり、入れ歯があわなくて舌癌になることが多いです。舌の裏面は舌癌の原発としては比較的少ないと思われます。 

 

 

病状のまとめ

舌癌ステージ4。組織型は扁平上皮癌。原発は舌裏面。初発症状2018年夏から2019年1月まで約半年経過後、診断確定。 

 

 

歯科医師のレーザー治療の功罪

よく読むと堀ちえみさんのブログで、気になる記載があります。

しかし11月になっても、 少しも良くならず、 酷くなる一方。

痛みも増して辛くなり、 掛かりつけの歯科医院に行き、 診察を受けました。

そして何度かレーザーで、 焼いて貰ったりもしました。

  (堀ちえみさんのオフィシャルブログより) 

 

口内炎が夏頃からずっと続いて何度か歯科でレーザー治療を行った、という記載があります。

 

『口内炎 レーザー治療』

 

で検索してみるとわかるように歯科医がズラリと並んでいます。かなりの頻度で口内炎の治療のレーザー治療は歯科医で行っています。

 

おそらくは口内炎のレーザー治療を繰り返していたのが、今回舌癌の診断が遅れた最大の問題だと思われます。

 

 

レーザー治療の何が悪いのか?

レーザーで口内炎を治療することは歯科に比べて医科ではあまりメジャーな治療ではないと思います。少なくとも自分の知っている範囲ではレーザーで口内炎の治療を行っている先生はいません。

 

そのかわり白板症の治療や腫瘍の摘出のため、病変を切り取って摘出するためにはレーザーはよく用いられます。

 

一体何が違うのでしょう?

 

レーザー・蒸散と切開

口内炎の治療にはレーザーをつかって口内炎を焼いて削り取ります。蒸散といって、悪いところを蒸発させてしまうようなイメージです。defocusといってレーザーの焦点をずらして、たとえるならウルトラマンのスペシウム光線のように広く焼いてしまう感じです。

 

この場合、病気がなんであったのかはわかりません。表面を蒸発させるので深い位置に癌が残るとやがて再発し、わけがわからないまま何度もレーザーをやって、どんどん深い部分の癌が大きくなってしまいます。

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一方、癌の治療で使う場合のレーザーはおおむねメスのように切るために使います。メスだと血が出ますが、レーザーだと焼きながら切るので出血がすごく少なくてすみます。レーザーもフォーカスで使用します。この場合、病気の部分を切り取るので組織を顕微鏡で調べることができます。口内炎だと思っていたら癌だった、ということはこれで判断することができます。

 

レーザー治療の功罪

ここからはあくまで予想ですが、担当の歯科医では口内炎の治療としてレーザー(おそらくCO2レーザー)をdefocusで何度か蒸散を行ったのではないでしょうか。そのため悪い部分の精密検査は行わず、たんに口内炎のようなものが悪くなったので焼く、また出たので焼く、の繰り返し。でも実は癌で、わからないままどんどん深くに進んでいった。そのうち舌の神経に癌が浸潤して痛みが出て、筋肉に食い込んで舌の動きにも影響が出てきた、ということではないでしょうか。

 

担当の歯科医師は専門家として、舌癌ステージ4に到達する前にどこかで気づく事ができなかったのでしょうか?口内炎を診ていた歯科医師について言及があまりないのは現場の医師としてはちょっと不思議な気がします。 

 

現在、レーザー治療はその理論や臨床データがあまり確立しないままに広く行われている印象です。どの程度の口内炎が治り、どのくらい治らないのか?どの程度の癌が見逃され、レーザー治療のどの時点で癌を疑うのか?ガイドラインなどがないままに歯科医師でレーザー治療が行われ、正体不明のまま病変を焼いているのではないでしょうか?

 

やはり難治性の口内炎の場合は生検を行って組織を確定するか、早めに基幹病院に紹介してコンサルタントすることが最も大事だと思われます。 

 

 

 

舌癌ステージ4の治療、予後について 

予後

舌癌については下記の舌癌関連HPや舌癌の予後の論文を見てもらえましたらわかりますように、ステージ4で大学病院で5年生存率がおおよそ50−60%台です。がん研やがんセンターでは30−50%台になっていますが、これはより重症な患者さんが集まっているからかもしれません。

 

治療方法  

そして左首のリンパにも、 転移している事が判明。

22日には手術です。 舌の半分以上を切除。

 

首のリンパに転移した腫瘍も、 同時に切除します。

  (堀ちえみさんのオフィシャルブログより)  

 

リンパ節は同じ側だけのようです。舌は半分以上切除ということで舌半切〜亜全摘。

『頭頸部癌診療ガイドライン 2018年版』では治療は舌半切(あるいは亜全摘、全摘)と頸部郭清になります。頸部郭清とは首のリンパ節をきれいに取ることです。

 

今回、口腔外科の先生が主治医のようですが、歯科医師が癌を見るのはいいのですか?というご指摘は多々あります。首のリンパ節をきれいにする頸部郭清術は首の手術です。歯の専門の歯科医師が、首まで手術をやるのはいかがなものかという意見も多くあります。どんどん守備範囲を広げようとする歯科医師に耳鼻咽喉科は困っております。

 

日本耳鼻咽喉科学会・口のなかのがん(癌)は誰が診るの?

http://www.jibika.or.jp/citizens/topics/0609_area.html

 

切除した舌には、 自分の皮膚の一部を、 移植します。

 

一度の手術でこれらを、 全て済ませます。 口腔外科と形成外科の合同チームの手術で、 12時間以上掛かると、 聞いております。

  (堀ちえみさんのオフィシャルブログより)  

 

自分の皮膚をどこから持ってくるかですが、有茎と遊離皮弁があります。有茎皮弁で最も多い大胸筋皮弁は胸から首にかけて傷が残るので、芸能人の治療として今回はないと思います。遊離皮弁の場合は前腕皮弁が最も多く、手首の内側の皮膚を血管と一緒に口の中に持ってくることが多いです。遊離皮弁は形成外科が専門になります。

 

12時間以上の手術となると、もしかしたら前腕皮弁ではなく手術の後が目立たない腹直筋皮弁や前外側大腿筋皮弁を使用するのかもしれません。前腕だと手に傷が残って目立ちますが、腹直筋皮弁だとおなか、前外側大腿筋皮弁だと足から取りますので隠しやすいかもしれません。

 

あるいは舌癌がアゴの骨までいってる下顎骨浸潤があって下顎骨正中離断や腓骨皮弁による再建が必要なのかもしれません。その場合だと12時間以上の大手術になっても不思議ではありません。舌だけでなく顎の骨も切り取って、アゴを割ったり足の骨をアゴに移植する手術もあり得るということです。

 

 

まとめ

舌癌は医学的な知識を持っている専門家がきちんと診断して、きちんと治療するというのが一番大事だと思います。しかし今回専門家であるはずの歯科医師はきちんと責任を持って判断ができていたのでしょうか。それが一番の疑問です。口内炎の治療をするなら、口内炎ではない場合の判断も責任を持って出来なくてはいけません。ですが、専門的な判断とは言いがたい展開です。

 

堀さんが自分で病院を変え、セカンドオピニオンを得ることで舌癌を見つけることができましたが、もう少し遅ければ手術自体が不可能になっている可能性もあります。

 

医療関係者にとっての教訓の第一は『医師、歯科医師は予想していない結果になったら患者さんを囲い込まないで他の先生のコンサルトするということにつきます。残念ながらこの基本ができていない医師、歯科医師が一定数います。根本的な診断や治療を行わず、姑息なその場しのぎのことをやって、ますます状況を悪くするというセンスが悪い先生です。

 

さらにはレーザー治療のガイドラインの作成など、広く歯科医師が行っているレーザー治療について再考すべきではないでしょうか。舌癌に注目が集まり、口内炎のレーザー治療にはあまり注目はされていませんが今回のことから多くの医療関係者が学ぶことがあると思います。

 

一般の方には堀ちえみさんをとおして、舌癌というものがあるということを知ってほしいということです。舌癌は専門が耳鼻咽喉科、あるいは歯科医師の中でも口腔外科になります。 

 

舌癌のステージ4の治療の中心は手術になりますが、大変長時間の複雑な手術になります。治療についてはごくごく簡単に書きましたが、頭頸部診療ガイドライン2018年版の舌癌アルゴリズム(P.34)をもとにして書いております。バリエーションも多く、疑問点は担当の先生にご相談いただくのが一番いいかと思います。

 

本当に、堀ちえみさんの一日も早いご回復をお祈りしております。

 

<医療リテラシー関連書籍>

「ニセ医学」に騙されないために 危険な反医療論や治療法、健康法から身を守る! 単行本(ソフトカバー) – 2014/6/25 NATROM (著) 

 

代替医療解剖 (新潮文庫) 文庫 – 2013/8/28 サイモン シン (著), エツァート エルンスト (著)

 

 

 

関連書籍・HP・論文など 

(1)頭頸部癌取扱い規約第6版 TNM 分類の一部訂正について  

http://www.jshnc.umin.ne.jp/pdf/teisei_20181225.pdf

http://www.jshnc.umin.ne.jp/pdf/teisei_20181225.pdf

 

(2)正誤表一覧  

https://www.kanehara-shuppan.co.jp/_data/books/20382S.pdf

https://www.kanehara-shuppan.co.jp/_data/books/20382S.pdf

 

 

関連書籍 

頭頸部癌診療ガイドライン 2018年版 単行本 – 2017/12/21 日本頭頸部癌学会 (編集) 

 

頭頸部癌取扱い規約 第6版 単行本 – 2018/2/2 日本頭頸部癌学会 (編集) 

 

TNM悪性腫瘍の分類 第8版 日本語版 単行本 – 2017/12/26 James D. Brierley (著, 編集), Mary K. Gospodarowicz (著, 編集), & 2 その他 

 

 

舌癌関連ホームページ

がん研有明病院

口腔がん|頭頸部がん|がん研有明病院

舌癌IV期 5年生存率 45%

 

国立がんセンター東病院

東病院の治療成績|国立がん研究センター

舌癌IV期 5年生存率 34.0%

 

大阪国際がんセンター - 大阪府 

http://www.mc.pref.osaka.jp/hospital/department/gansenmoni/jibikoukuu/

舌癌IV期 5年生存率 56.0%

 

 

 

 

 

舌癌予後論文(近年2017-8年発行) 

進行舌扁平上皮癌症例の検討 

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjshns/27/3/27_285/_pdf/-char/ja

IV期 3年生存率74%, 5年生存率64% 

 

岩手医科大学における過去 10 年間の舌癌症例の検討 

https://www.jstage.jst.go.jp/article/orltokyo/60/Supplement1/60_s40/_pdf/-char/ja

Stage IVA+IVB 5年生存率56.7%  

 

秋田大学における舌癌治療成績 

https://www.jstage.jst.go.jp/article/orltokyo/60/Supplement1/60_s38/_pdf/-char/ja

IV期 5年生存率63.3%  

 

札幌医大耳鼻咽喉科における舌癌症例の検討 

https://www.jstage.jst.go.jp/article/orltokyo/60/Supplement1/60_s34/_pdf/-char/ja

Stage IV 5年生存率64% 

 

 

<医療関連記事>


 

 

 

 

 

 

ご参考になりましたら幸いです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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