勤務医開業つれづれ日記・3

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【思春期ビターチェンジ】二次創作「ビターチェンジの記憶(後編)」【SS】

前編はこちらから)

 

 

 

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トラックの接触事故から8年。はじめて大塚結依の体にユウタが入ってから16年になる。ユウタは高校2年生からユイの身体でサッカーをはじめてからすぐに注目される選手になった。そしていまユイは日本女子代表の中心的な選手になっていた。

 

サッカー女子ワールドカップ決勝戦、対戦相手はアメリカ。身体能力で上回るアメリカ選手はパワーで押してくる。日本はアメリカをパスワークとキックの正確さで対抗する。

 

ベンチには高岡和馬が座っていた。和馬は大学の教育学部を卒業し、理論派のスポーツトレーナーとしての実績を積み上げてきている。大塚結依の専属トレーナーであり、現在は日本女子サッカーチームのトレーナーになっていた。観客席は婚約者の木村佑太が心配そうに試合を見つめていた。

 

2-2の同点で迎えた延長戦の最終場面、大塚結依がコーナーキックからのボールを押し込んだ。

 

「ゴール!!!」

 

その瞬間、競技場をカメラのフラッシュが包んだ。観戦していた世界中の観客を歓喜させた大塚結依のスーパーゴールが生まれた瞬間だった。繰り返し繰り返し、全世界の人々が見ることになる一瞬だった。

 

二度目のサッカー女子ワールドカップ優勝。これが日本女子サッカーの第二黄金時代の幕開けだった。そして大塚結依は高校の途中からプレーをはじめた遅咲きのサッカー選手として、日本だけでなく世界中から注目を浴びた

 

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大塚結依、つまりユウタは世界中からの取材でもみくちゃにされた。大塚結依の婚約者である木村佑太、そして日本女子サッカーのトレーナーである高岡和馬の3人が幼馴染であることが報道され、さらに注目は高まるばかりだった。

 

「本を出しませんか?最大限協力しますから」

 

多くの出版社から本を書かないかというオファーが来た。大塚結依だけでなく、木村佑太や高岡和馬にも話は来ていた。

 

ユウタは文章を書くのが苦手だ。即座に断った。

「いやぁ、作文は無理」

 

もちろんそんなことであきらめる編集ではない。話題がピークにある今の時期にどうしても出版したい。どんな形でもいいから、大塚結依の素顔が見えるような内容が欲しかった。日本中、いや世界中が大塚結依のことを知りたがっていた。

「何でもいいですから。日本女子サッカーのエースストライカーである大塚結依ってどんな人か、みんな知りたがっているんです。インタビュー形式でも、友人との話でも構わないですし」

 

「佑太や和馬と一緒でもいいのかな?」

 

「もしそんな本ができるならすごい!最大限、サポートさせてもらいます」

 

「じゃあ、相談してみます」

 

ユウタの心の中には小さな決意があった。ユイともすでに相談している。和馬も理解してくれている。ここまでくるのにずっと支えてくれた人たちに恩返しになるような、本を出したかった。世界中に今までの自分たちの本当の姿を出そうと思った。

 

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しばらくして大塚結依、木村佑太そして高岡和馬の3人の共著が出版された。出版された本のタイトルは、

 

『ビターチェンジ』

 

だった。

 

内容は、衝撃的だった。二人が小学生のころから入れ替わり、二度目に高校のときの事故でいったんはもとに戻ったが、直後に三度目の入れ替わりがあったこと。三度目の入れ替わりのあとからサッカーを始め、みるみるうちに頭角を現し日本代表になったこと。あまりに信じられないようなストーリーに日本中、いや世界中の注目がふたたび集まった。

 

「日本のエースストライカー、大塚結依が人格入れ替わり!?」

「大塚結依はもともと男性!?」

「大塚結依、木村佑太、どっちが男性?どっちが女性?」

ゴシップ誌が取り上げない日はなかった。

 

大塚結依の女性としてのワールドカップ参加資格の問題も起こり、一時は日本女子チームの優勝取り消しすら検討されたが、最終的なセックスチェックには全く問題がなかった。和馬がすべてを見越して対応をしていたのだ。いままでの医療機関のデータを共有していて、迅速に対応できたのも良かった。国際大会が求めるような基準をクリアできるように、あらかじめいろいろな準備を和馬が整えていたのだ。

 

『ビターチェンジ』を出版した影響で、二人とも精神疾患であるとか頭がおかしいと言われたこともあった。多重人格や二人の人格の不安定性、共依存など様々なことを言われた。和馬が二人をおかしくしている、と言う人もいた。

 

しかし二人のことを理解してくれる人も少しずつ現れた。ユウタとユイが本当のことを隠すことなく、入れ替わっていることをそのままで理解してくれる人たちがいた。

  

出版後、3人で集まれる機会がなかなかなかった。ユウタは有名になって引っ張りだこだったし、和馬にもいろいろなオファーがあった。ユイも有名人の婚約者として、本業の保育士の仕事にも影響が出るほどだった。ようやく3人で集まれたのは数カ月後だった。

 

「ユイ、本を出したことを後悔していない?」ユウタは聞いた。

「うん、これほど騒動になるとは思っていなかったけど、自分に素直になることができたかな。そして二人とも味方になってくれたから」ユイは答えた。

「オレも二人のことを守ることができてよかったよ」和馬は言った。いつもは無表情な和馬が、ちょっとだけ顔をほころばせているのが印象的だった。

 

「入れ替わったときにユイの心が『もっと素直になりたい』って思っているが伝わってきたよ」ユウタはユイの手を握りながら言った。「オレ、ユイの体を使わせてもらってサッカー選手になったから、今度はユイの希望をかなえる番だって思ったんだ」

「ユウタはいつも私のヒーローだね。サッカーも本も、私じゃできないことをしちゃうんだもん」ユイはぽろぽろ泣きながらユウタの手を握り返した。ユイの耳にはピアスが光っていた。ユウタの身体を預かっているユイが、唯一希望したのがこのピアスだった。

 

「さてユイ、ユウタ。これから大事な決断をしよう」和馬は真顔に戻って言った。

 

「ユウタ、世界中から連絡が来ている」

 

和馬は二人のためにいろいろなことをしてくれた。ユウタの専属トレーナーで、今は和馬にも世界中からオファーが来ている。それを全部断って、ユウタとユイのこれからの未来についても考えてくれている。

 

「世界中?まじか」ユウタは楽しそうに答える。

「まちがっても世界チャンピオンだからな」和馬は淡々と先を続ける。「特にアメリカとドイツのチームからオファーがある。どうする?」

「うーん。ドイツのフラウエン・ブンデスリーガはいい雰囲気かも」

「じゃあドイツ語、勉強だな」

「げぇ」

「細かいプレーの話とか、ドイツ語できないとダメでしょ」和馬はピシャリと言った。「いまの日本にいても雑音が多くて練習にならない」

 

ユウタのために、高校のころからユイと和馬は将来を見すえて語学の勉強をしていた。ドイツ語も勉強していた言語の一つだ。ユウタは語学が苦手だ。持ち前のキャラでどうにか困った場面は切り抜けることができる。でもドイツのプロリーグに行くとなると話は別だ。

 

「ドイツかぁ」

「いま女子サッカーはアメリカからヨーロッパにシフトしてきているから、絶対に無駄にならないと思うよ」和馬はこともなげに言う。「ユウタは世界チャンピオンだけど、守りに入ったらダメだ」

 

「ユイはドイツ行くの、どうする?」ユウタはずっとユイの手を握っていた。ユウタはすでにドイツに行く決意を固めているようだった。

「ユウタがもしよければ一緒に行きたいけど、」入れ替わっているユイはユウタよりずっと背が高いが、何かあると上目遣いでユウタを見る。「ユウタは高校の時の約束、覚えてる?」

「もちろん!忘れるもんか」ユウタは言った。高校を卒業して大学を卒業して、そしてサッカーの夢をずっと追いかけてきた。人生の節目ごとにユウタはユイに言っている言葉がある。

 

「もう、ずっと一緒だかんな」

「うん」

「ずーっとだよ!」

 

ユウタはユイの手をしっかりと握って言った。

「すまんが、オレもドイツに行っていいかな?」和馬は二人の横から、事務処理のようにニコリともせず聞いた。

「もちろん!」二人は同時に答えた。

 

三人は外に出た。川沿いのランニングコースで、ユウタはランニングシューズのかかとで地面を軽く蹴ってから走り始めた。ユイと和馬は走るユウタの背中をずっと見ていた。

 

「ユイ、和馬!」遠くまで走っているユウタが振り返って手を降っている。ユイと和馬はユウタに手を振り返す。川はゆっくりと流れ、太陽の光をきらきらと反射させている。空は青く澄み渡り、全てはどこかで遠いヨーロッパに、そして世界中につながっている。

 

二人の、そして三人のビターチェンジは終わらない。

 

 

(了)

 

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追記:生まれて初めての二次創作の続きです。ユイとユウタのそれからを書いてみました。いやもう、二次創作ははずかしすぎます。でも本当に『思春期ビターチェンジ』好きです。 

 

二次創作、前作の和馬編はこちら。

【思春期ビターチェンジ】二次創作「ビターチェンジを君に」【SS】 - 勤務医開業つれづれ日記・3

そして本作の前編はこちら。 

【思春期ビターチェンジ】二次創作「ビターチェンジの記憶(前編)」【SS】 - 勤務医開業つれづれ日記・3

 

思春期ビターチェンジ(9) (ポラリスCOMICS) コミックス – 2019/1/11 将良 (著) 

小学4年生のある日、突然、お互いの身体が入れ替わってしまったユウタとユイ。元の姿に戻れないまま迎えた高校2年生、夏。「オレと、ずっと一緒にいてよ」、恋も友情も全部、君の身体で経験した、ふたりの入れ替わり長期戦──ついに完結!! 【電子版限定! 「番外編」エピソードを特別収録!】