勤務医開業つれづれ日記・3

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【思春期ビターチェンジ】二次創作「ビターチェンジを君に」【SS】

(高岡和馬メモより)

 

病院の待合室はすでに受付時間が終わり人の気配があまりなかった。トラックと接触事故を起こしたユウタは大きな病院に救急搬送された。ユウタがいる集中治療室の前は照明が落とされ、薄暗くなっていた。俺は、ケガがなくすぐに意識が戻ったユイと二人で待合室の長椅子に腰かけていた。

 

ユウタが帽子を取ろうとして木に登り落ちたことをきっかけに、ユイとユウタの人格は8年間もの間入れ替わっていた。いろいろ調べて、多くのことを試してみたが、どうしても二人の人格は元に戻れなかった。しかし今回のトラックとの接触事故で、8年ぶりに二人の人格が元に戻った。

 

トラックと接触したのはユウタの身体だ。入れ替わったユウタはトラックとの事故で意識が戻っていない。ユイの身体は無傷だった。精神が入れ替わり、元の女性の身体で目覚めたユイはユウタのことを俺に聞いた。ユウタは無事なのだろうか、と。

 

「……ごめん、俺にはわからない」

 

俺はあいまいに答えた。本当は分かっていた。入れ替わりには命が必要だということを。俺は隣りに座っているユイの手を握りしめたかった。ユイの身体に戻ったユイの魂をそばに感じたかった。でも、それはできなかった。

 

その後、二人は病室で3度目の入れ替わりを経験した。ユウタの精神はユイのもとに戻り、ユイの精神は再びユウタの体に戻った。もとに戻った、という言い方が正しいかどうかはわからない。とにかくユウタとユイの身体と精神は3度、入れ替わったのだ。

 

■  ■  ■  ■  ■  

 

この3回の入れ替わりについて俺なりに考えてみたいと思う。あくまでこれは個人的なメモだ。今は内容をユウタにもユイにも伝えることはできない。

 

ユイとユウタが入れ替わったのは今までに3回だ。最初はユウタが帽子を取ろうと木に登り、落ちてユイとぶつかったとき。2回目は8年後、ユイがトラックと接触して意識を失って病院に運ばれたとき。そして3回目は病院でユイが意識を取り戻したユウタと会い、ユウタの手を握りしめながらもとに戻してほしいと言ったとき。

 

今のところ二人の入れ替わりは3回目だ。しかし3度入れ替わったのだから4回目がないとは言えない。いや、むしろ4回目も5回目もあると考えるのが自然だろう。俺たちは、いや少なくとも俺だけは再び起こるであろう次の入れ替わりに備えなくてはいけない。

 

【文献について】

時代や国を問わず、人格の入れ替わりについてずっと調べていた。二人の人格が入れ替わるには多くの場合、事故や突発的なトラブルが関係してくる。しかしその多くは単発で、短期間だ。

 

いまたくさんの作品が生まれている“なろう系”の生まれ変わり(リインカネーション)とは違う。苦労しても現代社会では報われなかった人が異世界に生まれ変わり、現代のスキルを利用する。なろう系は、心は一つのまま身体が別になる。

 

あるいは超能力のようなもので自分よりも格下の動物や同じ人間に乗り移ることがある。しかしその場合には一方的で、乗り移られた方の意識はないか、意識に反して身体を使われる。一つの身体の中で抑え込まれているか、眠っているような状態になっている。元の自分に相手の意識が入って交換されるわけではない。これは身体が一つで心が二つ。そして相手の心を抑え込んでいるという状態だ。

 

ユイとユウタの場合は、心と体が二つずつあって入れ替わっている。そして入れ替わりの状態が8年もの長い期間、ずっと続いている。

 

【衝撃について】

入れ替わりの条件は一体なんなのだろう?初めてユイとユウタから相談されてからずっと考えていた。一番考えられるのは二人に物理的な強い衝撃が入れ替わりのきっかけだということだ。一度目の入れ替わりのあと、二人は何度も同じ場面を再現しようとした。ユウタが同じように木に登り、下にいるユイにぶつかる。しかし残念ながら入れ替わりは再現できなかった。

 

2回目の強い衝撃はユウタの身体とトラックとの接触だった。ユウタの身体だけに強い衝撃があったのだ。つまり木に登って落ちる、そしてユウタとユイとぶつかる、ユウタとユイの二人ともに衝撃があるということは必ずしも必要な条件ではなかったのだ。

 

しかも驚くべきことに、3回目の入れ替わりは衝撃すらない。入れ替わって元に戻ったあとのユイがユウタの手を握りしめていた。ユウタの身体がそのまま衝撃を受け、ユイの身代わりになって病院の集中治療室で治療されていた。

「……どうか、もとに戻して。お願いだから……!」

ユイがそう言ったあと、ユウタは意識を再び失った。そしてユイとユウタは衝撃なしに3度目の入れ替わりをしたのだ。

 

【入れ替わりの条件】

俺は一つ一つの出来事を注意深く思い出してみた。8年もの長い間を超えて、再び二人が入れ替わったその共通点を探した。

 

第一に、入れ替わりはユイとユウタの間だけで起こる。それ以外の人間では起きていない。ユイとユウタ、ふたりだけで入れ替わりが繰り返されている。入れ替わるときに二人がそろっていることは必要だと思う。二人がバラバラのときに急に入れ替わったりはしていない。

 

第二に、精神、魂の入れ替わりだから、入れ替わりのときの精神状態は重要だと思われる。入れ替わる時二人は何を考えていたのか?誰が入れ替わりを望んでいたのだろうか?

 

初回はユイが無意識にユウタになりたいと思っていた。2回目はユイがもとに戻りたいと思っていたが、ユウタはあきらめていた。3回目は病院の集中治療室でユイがユウタとの入れ替わりを望んでいた。つまり3回ともユウタが希望していない場面で、ユイが入れ替わりを希望している。入れ替わりの3回ともユウタが入れ替わりを希望はしていない。8年前からユウタが入れ替わりを望んで何度も木から落ちてぶつかっても、一度も入れ替わりはなかった。ユウタがあきらめ現状を受け入れているとき、そしてユイが、ユイだけが入れ替わりを望んだときに、二人の人格は入れ替わっているのだ。

 

第三は帽子だ。3回とも入れ替わりの場面にピンクの帽子がある。初回は木に登ってユウタが取ろうとしていた。帽子はユウタと一緒に木から落ちてきた。2回目はユウタの告白の返事で、ユイが手にしていた。しかし風で帽子は飛ばされ、それを追いかけてユイはトラックと接触した。3回目は元に戻ったユイがしっかりと握りしめていた。帽子が3回ともそばにあった。

 

さらに、ユイが帽子に特別な感情をいだいているときに入れ替わりは起きている。初回はユイが帽子を持っていて風で飛ばされ木にひっかかってしまう。そして帽子を取ろうとしたユウタと一緒に帽子が落ちてくる。2回目はユイが告白の返事として帽子を持ってきていた。そして入れ替わり後、ユイは帽子を握りしめながらもとに戻ることを望み、3回目の入れ替わりが起こった。

 

ここまで入れ替わりのの条件を考えてみると、最初の印象より予想以上にユイが入れ替わりの中心になっていることに気づく。ユイが入れ替わりを希望し、ユイがピンクの帽子のそばにいる。

 

一方、入れ替わりの時にユウタはどうなのだろう。

 

第四に、二人の意識について考えてみる。1回目、2回目の入れ替わりでは二人とも意識がない。しかし3回目はユイの意識ははっきりしている。でもユウタは病院の集中治療室で治療中で、酸素吸入をしており意識がもうろうとしていた。3回ともユウタが意識を失う状況でのみ、入れ替わりが起こっている。ユイの意識状態はおそらく入れ替わりには関係がない。

 

そしてユウタはいつも入れ替わりのときに「ユイのヒーローになりたい」と思っている。初回は小学生で「無敵のヒーローだから!」と宣言して木に登る。2回目は告白のときに「お前の夢は叶えてやる」とユイに言っている。そして3回目は「オレ、ヒーローになれたかな」とユイに聞いている。

 

現時点で二人の入れ替わりの条件は、おそらくこの5つになる。

 

1)二人がその場所にいること。二人の間でだけ起きる。

2)ユイが入れ替わりを望んでいること。

3)帽子があり、ユイが帽子に特別な思いを抱いているとき。

4)ユウタの意識がなくなるような場面であること。

5)ユウタがユイのヒーローになりたいと思っていること。

 

入れ替わりに関してはユイの願望が中心で、ユウタが受け身なのだ。

 

ユイが希望し、帽子がある場面でそれは起きる。帽子はそれ自体が入れ替わりを起こさなくても、触媒として必要なのかもしれない。そしてユウタの意識がなくなり、ユウタがユイのヒーローになりたいと持っている場面で入れ替わりが起きるのだ。

 

木から落ちたり、トラックとの事故は身体に物理的な衝撃があったはずだけど、3回目の入れ替わりでは衝撃はない。しかしユイの心には大きな衝撃があったはずだ。ユウタが事故で病院に運ばれて、自分のために大変な目にあっている。

 

ユイの身体ではなく“精神”が強い衝撃を受けて入れ替わりを希望して、ユウタの意識がなくなってユイのヒーローとしてユイとの入れ替わりを受け入れる。これが二人の入れ替わりなのではないだろうか。

 

■  ■  ■  ■  ■  

 

「……ごめん、俺にはわからない」

 

いや、本当は分かっていた。入れ替わりに命を投げ出すような決意が必要だということを。ユイが望み、ユウタの意識がなくなり命をかけてユイを受け入れるということが必要なのだ。

 

ユイの希望だけで二人は入れ替わりを行っていると知ったら、きっとユイは傷つくだろう。自分のためにユウタがいつも犠牲になっているように思うに違いない。しかしユウタはユイのために自己犠牲を希望しているのだ。ユウタはいつもユイを受け入れる。ユイの心に強い衝撃を受けたときにユウタはいつも助ける。

 

「ユウタがいたから今の私になれたの。全部、全部。ユウタはずっと前から私のヒーローだったよ」

 

ユイはそう集中治療室でユウタに言った。ユウタはいつも文字通り身をなげうって、ユイを受け入れて、ユイのためのヒーローになる。

 

ユウタが命をかけて守ったユイの手を、オレは握ることができない。ユイの魂が、ユイの体の中にある。その感覚を感じてみたい。でも俺はユウタが意識を失っているときに、ユイに触れることはできない。それはユウタに対する裏切りのような感覚だ。

 

ユイ、いつか君が君であるために、本当のすべてを知りたいと思ったときに教えようと思う。ユイとユウタの二人の間だけでしか起きない、世界でたった一つの現象を俺はずっとそばで見ている。そして多分、これからもずっと見ている。

 

これから何度ユイとユウタの入れ替わりが起きるかわからない。もしかしたらもう二度と入れ替わりはないかもしれないし、明日また入れ替わるかもしれない。

 

でも、ユイは他の誰でもなくユイだ。身体ではなく、ユイの精神と魂を尊敬し尊重するよ。俺はいつまでも二人のそばにいて、ユイとユウタのほろ苦い入れ替わり、ビターチェンジをずっと助けよう。俺は、小学校のころ最初にユイを助けると言ったそのままの気持ちでいるよ。

 

 

 

 

(了) 

 

 

 

追記: 生まれて初めての二次創作です。『思春期ビターチェンジ』を読んでから、自分の中からあふれてくるものをどうしようもなかったです。書いたあとで、一生お蔵入りさせようかとも思いましたが、少しでも『思春期ビターチェンジ』のファンの皆様に届いたらうれしく思ってメチャクチャ恥ずかしいのですが、ブログに上げてみます。よろしくお願いいたします。

 

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