勤務医開業つれづれ日記・3

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【医療崩壊】東京医大入試不正事件を絶望的に語ってみる【福島大野病院・産科医逮捕事件から10年】

はじめに

東京医大の入試不正事件が世間を騒がせています。医師として個人的な意見を述べたいと思います。

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はじめに結論からいうと、日本医療は変わらないだろうな、と絶望的に考えています。

 

10年前の福島大野事件をはじめとした医療崩壊の現場を経験していものとしてのあきらめです。医療崩壊を実際に経験して、いろいろな変更(主に改悪)を経てここまで日本の医療は来てしまったという印象しかありません。

 

今回の東京医大入試不正事件のポイントは2つあります。入試不正と日本の医療事情です。

 

目次 

 

入試不正

第一に入試不正はルール違反であり、非難されて仕方ありません。一般には公平なルールで入試を行います、と公表いるとしているのに、実は裏で別なルールが作動していたというのはまともな入試ではありません。

 

サッカーで例えるなら、女子チームと4浪チームにはオフサイドを取るのに、男子チームだけオフサイドを取らないようなものです(3浪男子は2回に1回オフサイドとります)。もし仮にこういうルールでやりますと公表しても、賛同は得られないでしょう。性別や浪人を基準にオフサイド取るかどうか決めますって納得できるでしょうか?

 

一方、男女差別なんて当たり前です、っていうことをいうタレント女医さんがいましたが、個人的にはものすごいびっくりしました。自分が物を知らないだけなのかもしれないし、国公立大の医学部だからたまたま男女差別にあまり遭遇しなかったのかもしれません。

 

入試における男女差別が当たり前にあったということはありません。あくまで個人的な意見ですが。

 

しかし、ルールとしての入試に裏ルールがあるのはいけませんし、その差別の基準が性別と年齢だとすると一切の言い訳はできない状況だと思います。

 

 

日本の劣悪な医療事情

第二に日本の医療事情です。世界と比較してみましょう。

 

外来には患者さんが押し寄せる

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WHOの受診者数のデータです。2017年医師一人当たりの受診者数データです。見てわかるように赤い棒の日本の医師は一人ですごい数の患者さんを診ています。

https://data.oecd.org/healthcare/doctors-consultations.htm

 

スウェーデン医療のことを褒めている方がいらっしゃいましたので対比はスウェーデンにしました。

 

日本は入院期間がものすごい長い 

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こちらは入院期間です。日本はぶっちぎりで1位です。

https://data.oecd.org/healthcare/length-of-hospital-stay.htm#indicator-chart

 

世界有数の高齢化率 

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そして日本は抜群の高齢化率を誇ります。こんなもの誇ってもどうしようもありませんが、人口動態は何十年も前から予測がついていることです。

5 高齢化の国際的動向|平成29年版高齢社会白書(全体版) - 内閣府

 

 

 

以上から、聡明な方々には”日本医療まずい”ってこんな簡単なデータからもすぐわかりますよね。世界基準からすると日本の医療はこのように言えます。

 

 

外来には大量に患者さんが押し寄せ

入院するとぶっちぎりで長く入院し

高齢化率はめちゃくちゃ高い

 

日本の医療は安い

さらに致命的なことに日本は医療費が安い。本当に安い。安すぎます。

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2017年の医療費のデータです。スウェーデンよりもかなり医療費は安いです。つまり日本に比べてスウェーデンは患者数が少なくて、入院期間が短くて、医療費が高い、ということです。

 

 

これは大昔のコピペです。これ出すとお祭り騒ぎにになるのですが、いろいろお怒りになる方がいっぱいいますので一応言っておきますが、あくまで”引用”です。

 

日本の医療費は先進国中、他の追随をゆるさないほど安いんだよ。

初診料日本2400円に対して、アメリカ平均20000円

物価がはるかにやすい中国よりも日本の方が安い。

これでもまだ高いっていうのか??

 

ってゆーか、

水道トラブル5000円トイレのトラブル8000円で、

おまえの体のトラブル2400円だぞ。便器以下かおまえ。 

何度見ても吹くコピペ - V系初代たぬきの掲示板

 

2018年現在、初診料は2820円になっています。420円上がっていますね。苦い笑いがこみ上げてきます。患者さん本人は原則3割負担ですから自己負担が850円ぐらいです。この価格は国が決めています。

 

 

日本の医療レベルは低くない

今の日本の医療レベルはどの程度でしょうか?以前、WHOでは日本が1位を取ったこともありました。今回はランセットという世界で最高峰の医学雑誌の2017年の論文を参考にしてみます。

Healthcare Access and Quality Index based on mortality from causes amenable to personal health care in 195 countries and territories, 1990–2015: a novel analysis from the Global Burden of Disease Study 2015 

https://www.thelancet.com/action/showFullTextImages?pii=S0140-6736%2817%2930818-8

The Lancet Journal

ARTICLES VOLUME 390, ISSUE 10091, P231-266, JULY 15, 2017 

 

この論文では、簡単にいうと日本は総合で195カ国中11位にランキングされています。

スウェーデンは日本より上の90点で4位、アメリカ(USA)は日本より下の81点で35位です。

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日本の患者さんは実はすごくいい環境

いままでの話を総合すると、世界基準で比較すると日本の医療はこのような位置付けになると考えられます。 

 

”早い” 専門医にすぐに直接受診できる

”安い” 医療費が安い

”うまい” 医療水準は決して低くない(11位/195カ国中) 

 

つまり日本の国民は医療に関してものすごい恩恵を受けているわけです。

 

フリーアクセスでどんな医師にも受診できて

めちゃくちゃ安くて

世界的に上位の医療を提供してくれて

長期間入院させてくれる

 

よぼよぼのじいちゃんが入院していて、

「明日退院ですね」

「いや、ちょっと待ってください」

「じゃあ来週ですかね…」

とか普通に会話できるのが日本です。

 

欧米なら、まず入院費用が高すぎて病院にいることができません。盲腸(虫垂炎)でも手術の翌日退院です。病院のそばにはホテルがあり、そこに宿泊して病院に通う患者さんも多いんです。

 

つまりは日本は、ホテルがわりに病院を使っているということです。

 

(他にも簡単には外来にいけないとか、専門医に受診できないなど自分がアメリカに住んでいた時の話もいろいろありますが、割愛させてもらいます)

 

逆に、提供する側からするとあまりに日本の医療関係者の労働環境が悪いのです。世界的にみて驚異的にコンビニエンスな医療を提供しているのです。

 

世界基準では日本医療の労働環境は劣悪すぎます。つまり、

 

日本の医療は安すぎて、海外から医師を呼べない

 

ということです。

 

 

 

医師の男女比 

そしていよいよ医師における女性と男性の比率のグラフです。

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女医さんの比率です。OECD加盟国の2000年と2015年の比較です。日本はやっぱりダントツに低いです。

Share of female doctors, 2000 and 2015 (or nearest year) | READ online

 

これが結果論なのか、意図的に行われているのかは別にして、このグラフの比率でどうにか現場を維持しているのが日本の医療の現実です。

 

医療環境の解決方法は? 

今までのお話でスマートな読者はすぐに分かったはずです。医療の労働環境を改善するのは簡単ですよね。悪い要素は今までお話ししてきたことですから、その要素を改善すればいいのです。

 

1)外来患者さんを減らす→ 患者さんが医療に簡単にアクセスできないようにする

2)入院患者さんを減らす→ すぐに退院させる

3)医療費を爆上げする

4)女性教授を強制的に一定以上任命する

 

1)外来患者さんを減らす

これは欧米でやっているように、フリーアクセスをしなようにすることです。かならず家庭医に受診して、そのうえ3ヶ月以上たたないと専門医に受診できないとか、完全自費診療のみで専門医にコンサルトできるとか、ER(救急外来)に入ったらその時点で2〜3万円かかるとか(アメリカではそうなっている)、そういう受診制限が必要です。

 

2)入院患者さんを減らす

これも欧米でやっています。2017年の保険会社のデータがあります。

イギリスだと盲腸(虫垂炎)で13日間入院して741万円かかっています。

ハワイで虫垂炎で入院手術、3日間入院で366万円です。

海外での事故例|ジェイアイ傷害火災

 

これだけ高額だと簡単に入院しようとか、長く入院しようとは思いませんよね。逆にホテルのスイートルームと比較しても、日本の病院の入院料金は安すぎます。

 

基本は入院しなくてはいけないところだけ入院して、あとはすぐに退院してもらうということです。居てもいいけど、超高額になる料金設定ですね。欧米だと「じいちゃんを来週退院にしてください」っていったら、入院費で車一台買えるぐらいになります。

 

3)医療費を爆上げする

診療報酬は一体どうなっているのでしょう?国が決めている1998年から2018年まで10年間の診療報酬の改定率の推移はこのようになっています。

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図録▽診療報酬の改定率の推移

 

診療報酬の改定率はこの10年間、見事にマイナスに偏っています。

世界的に医療の技術はものすごい上がっています。アメリカでは技術の急激な進歩にあわせて医療費が急騰しています。

 

対して日本は国が強制的にその価格を制限しています。進歩的な治療は抑えられ、赤字で治療を行なっているのが現状です。繰り返しますが、この価格は国が決めています。

 

4)女性教授を強制的に一定以上任命する

基本的に日本は男女平等ではありません。

ジェンダー・ギャップ指数では世界144カ国中、日本は114位です。特に政治分野の進出が遅れています。物事を決めるときに女性が関与していない比率が極めて大きいのです。そしてさらに順位は改善することなく落ちています。

日本114位、過去最低 世界の男女平等ランキング :日本経済新聞

(2017/11/2)

 

東京医大入試不正事件の解決方法は2つあって、一つは入試の時に女性が差別されているとして女性を優先的に入学させるということです。もう一つの解決方法は、女性教授や女性理事、女性学長など上層部を強制的に一定比率以上任命させるのです。つまり、女性が組織の決定権を有することです。

 

女性が5割いる教授会で、女性を軽視した合格判定できますか?女性を優先的に医学部に入学させるのはいいと思いますが、これではモグラ叩きとおなじで、また似たようで別な問題が噴出することでしょう。末端の女性入学者の比率をいじるだけでは問題は解決しません。

 

ジェンダーギャップ指数の値が低い日本は、女性の決定に関与する率が圧倒的に低いためにいつまでも優秀な女性が活かされない環境になってしまっているのです。入学の性差をいじるより、上層部をいじるのが一番有効だと思います。

 

日本ボクシング協会のようにダークな存在になってしまった大学教授会をマトモに戻すためには、日本人が一番苦手な決定機関を改変するのが一番だと思います。女性の教授を10年以内に3割以上、20年以内に5割とする、なんてやったらたぶん全てが劇的に変わります

 

そしてこの改革は日本のお偉いさんが一番やりたくないことだとは思います。政治も経済も上層部に女性がどんどん入ってくることを望んでいません。だから新聞でもそんな声が上がらないのでしょう。小手先の話ばっかりです。

 

福島大野病院・産科医逮捕事件から10年

ちょっとだけ昔を振り返ります。

福島県の大野病院事件が起きて判決が出たのがちょうど10年前です。2008年8月20日に無罪判決が出ています。

 

知らない方も多いかと思いますので、簡単に言うと大野病院で妊婦さんが出産時に亡くなり、産婦人科医が逮捕された事件がありました。毎日新聞が「医療ミス」として大々的に取り上げましたが「事実上の冤罪事件」でした。

福島県立大野病院産科医逮捕事件 - Wikipedia

 

マスコミはキャンペーンを張ってバンバン医療を叩きました。「たらい回し」というのはその最たる言葉でしょう。医療現場は疲弊し、患者さんからは懐疑的な目で見られ、クレームが急増しました。多くの医師が絶望し大病院の救急現場を離れ、新臨床研修が導入され都市部の有名病院に優秀な新人医師が移動しました。

 

全国を揺るがした医療崩壊問題から10年。日本医療は良くなったのでしょうか?私には全くそうは思えません。医療崩壊問題はいつのまにか喉元をすぎ、問題が解決しないまま時が流れています。

 

まとめ

最後までお読みいただきありがとうございます。クレバーな方々は日本医療の問題点から解決方法まですっきり理解できたかと思います。

 

では現実問題として、解決策を実行できますか?

できないですよね。無理筋ですよね。受け入れられるわけないですよね。

 

なぜなら医療現場の問題を解決しようとすると、患者さんが不便や不利益をこうむるからです。解決策を自分の身に置き換えてみてください。それぞれの解決策を自分自身が患者さんになったとしたら、受け入れられますか?

 

1)外来患者さんを減らす→「自分が病気になっても簡単に病院に受診できない」 

2)入院患者さんを減らす→「家族が入院してもすぐ退院」

3)医療費を爆上げする→「窓口負担は数倍かそれ以上」

4)女性教授を強制的に一定以上任命する→「自社でも男性より女性を優先的に昇進する」

 

みなさん納得いきますか?

東京医大入試不正事件では色々な人が色々なことを言っていますが、結局根本的なことを言っていないのです。欧米がいいという方、がっちり言ったらブーメランになって自分達に返ってきます。スウェーデンがいい?そりゃいいですよね。アメリカがいい?そりゃいいですよね。じゃあなぜ導入しないのでしょう?

 

つまり今の日本の患者さんの立場からしたら、今までより段違いに不便で高額な医療が世界標準なのです

 

”盲腸(虫垂炎)で入院手術、

3日で退院、つまりお腹痛くて入院、翌日手術、次の日退院。

そして請求書には300万円超”

を受け入れられますか、みなさん?

 

みなさん、できるわけないですよね。

みなさん、納得できるわけないですよね。

 

10年前にマスコミが「たらい回し」といって医療を叩きまくり、大野病院事件という事実上の冤罪事件が起こり、医療崩壊が日本中で叫ばれ、多くの医師がこのままじゃダメだと声をあげました。

 

それから10年、日本医療はどこにもたどり着けませんでした。

修正、修正、修正で、さらに減額、減額、減額で、抜本的な改革はありません。マスコミは10年前にあれほど医療を叩いたのに、ケロッと忘れています。リベラルと名乗るマスコミは誰よりも保守的で、既得権を重視しています。だれも本質を言っていません。誰も変える気がありません。そして誰も変化を希望していないのです。

 

解決策はあります。でも、みなさん良すぎるものを良すぎるからといって、いまより悪くすることは我慢できないでしょう。結局、現実問題として一般の人の協力と理解がない限り、解決は実行不可能です。私はとても絶望的に東京医大入試不正事件を見ています。10年前の医療崩壊でも日本医療は変わらなかった。ですから今回の東京医大入試不正事件でどうにかなるとは思えません。ただただ日本医療が壊れていくのを見守るだけしかないのが、私の偽らざる心境です。

 

 

 

 

<参考文献> 

上先生の書籍です。日本の医療の現状がわかりやすく書かれている良著です。

「医療は大都市なら安心」はもはや幻想。首都圏でも医師不足は深刻で、近い将来、巨大な「無医村」地区が発生するかもしれない。NPO法人医療ガバナンス研究所理事長の著者が、病院破綻と医療難民の実態を明らかにし、処方箋を示す。 

 

 

 

 

ご参考になりましたら幸いです。

 

 

 

 

 

 

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