【感想】『魔法使いの嫁 8』ヤマザキコレ (著) いまここが分かれ目。最も暗いのは、夜の明ける直前【マンガ感想・レビュー】
『魔法使いの嫁』8巻出ました。
チセは竜を助けるために竜の呪いを左手に受けてしまいます。大きく変形したチセの左手はチセをむしばんでいきます。エリアスも、魔女であるマリエルもそれぞれの立場でチセの呪いを解く手段を探します。しかしなかなか良い手がありません。
一方、竜を不法に捕まえたカルタフィルスは失われた左手を再生しようとして必死です。竜をつかまえたのも自分の手を再生するためです。しかしなかなかうまくは行きません。
チセに対する想いが、みにくく歪んでしまったエリアス。その行動はチセの反発を買います。みんな、ちょうど判断の分岐部に差しかかっています。それぞれ登場人物は一体何を思い、何を選択していくのでしょう?そしてみんなの幸せはどの方向にあるのでしょう?
大変読ませる8巻でした。7巻で竜の暴走があって大きく動いて、8巻ではみんな迷いながら進みます。でもそれぞれみんな思惑があり、みんな愛情を持って行動しています。でも同じ方向には進むことができません。チセとエリアスはどこへ向かうのでしょうか。そしてその方向にはどんな苦難がまちうけているのでしょうか。読み応えのある、かなりオススメの8巻でした。
<通常版>
<特装版>
目次
- 第36篇 You can't make an omelet without breaking eggs.
- 第37篇 You can't make an omelet without breaking eggs. II
- 第38篇 The darkest hour is that before the dawn.
- 第39篇 Necessity has no law.
- 第40篇 What is bred in the bone will not out of the flesh.
- まとめ
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第36篇 You can't make an omelet without breaking eggs.
卵を割らなくてはオムレツは作れない(何らかの犠牲を払わなければ目的を達することはできない)
タイトル英語にしたらチセの吹き出しが脳内で"Wow"に変換されてしまいました。暴走した竜を助けるために、竜の呪いを受けてしまったチセ。
コミック7巻最後にある8巻予告では「母から掛けられた呪い、生まれの呪い、そして竜からの呪い」とあります。今の段階では竜の呪い以外は何を指しているのかわかりませんが、生まれつき”夜の愛し仔” であることと、時々フラッシュバックされる小さなチセが母親から何かを言われるようなシーンが関係しているに違いありません。
第37篇 You can't make an omelet without breaking eggs. II
魔女のマリエルがチセとエリアスの元を訪れます。竜のオークションの時、チセの耳元に話しかけたのはマリエルでした。
チセのマリエルに対する第一印象は”お母さん”です。すれ違ったステラもマリエルに対して”お母さん”の印象を持ちます。魔女である彼女はそういう性質があるのかもしれません。神殿娼婦の血筋ということですから、娼婦であり母親であるというのは理想の女性像です。ある意味、まともじゃない。マリエルは魔女だから娼婦であり母親であるのかもしれません。
マリエルはチセを魔女の集会に誘います。マリエルはチセの血が欲しく、チセは竜の呪いを解く手がかりが欲しい。エリアスはためらいながらもチセと魔女の集会に行くことにします。
第38篇 The darkest hour is that before the dawn.
最も暗いときは夜の明ける直前である
魔女の集会でチセとエリアスは、竜が生きているかぎり竜の呪いは解くことも返すこともできないことを知ります。
そしてエリアスは知ります。
”命の代わりにするものは命しかないわよ”
魔女のマリエルの言葉がエリアスの耳から離れません。
第39篇 Necessity has no law.
背に腹は代えられぬ(必要の前に法律なし)
チセはエリアスの変な雰囲気を感じ取っています。チセはエリアスの変な動きに対して、風の精エアリエルと契約ではなくお願いをします。
第40篇 What is bred in the bone will not out of the flesh.
生来の性分は骨肉に徹している(隠しおおせない)
それぞれに自分の思惑でバラバラにことが進み出してしまいます。良くも悪くもそれぞれ自分の持っている性分です。まさにタイトル通り。
チセは自分が生きたくないと思っていました。自己犠牲が過ぎるのは自分の命をあまりに軽んじているせいです。しかし、心の奥にいる竜の長老は”己の倖せを諦めなかった君こそが君を導いているのだよ”と言います。
チセ自身は気付いていませんが、本当の心の奥では自分の幸せを望んで諦めずに前に進もうとしているのです。
エリアスはすぐチセに謝ります。ただし7巻の嫉妬に我を忘れてチセを取り込もうとした時とは状況が違います。今回はチセのためにステラに竜の呪いを移して身代わりにしようとします。それを知ったチセは今までにないほど激怒します。
エリアスは何百年も生きていて、カルタフィルスのような怪物と同じような考え方をするくらい部分があることを知ります。
ステラの中にヨセフが入っています。カルタフィルスのなかにヨセフがいるように、ロシアのマトリョーシカ人形状態なのかもしれません。現状ではよくわかりません。
第37編ではカルタフィルスにだれかが語りかけるシーンがあります。そのシーンではカルタフィルスは自分のことをヨセフだ、と言います。さらに第三の人物Xがカルタフィルスの中にいるのかもしれません。
ステラを助けようとしたチセは、ステラの中にヨセフがいるので動揺します。最初、「カ」って言っているのでカルタフィルスと思ったのでしょう。でもチセはステラを身代わりにしようとしたエリアスと一緒にいることができません。チセはヨセフの誘いを受け、レンフレッドの移動装置(7巻第33編でレンフレッドの腕と一緒にカルタフィルスに技術が奪われたと言っている)を使ってエリアスの元から去ってしまいます。
まとめ
なかなか深いお話です。
7巻で大暴れした竜がチセにかけた呪いをどうしたらいいのでしょう?みんながそれぞれの立場で竜の呪いについて考えます。
エリアスはどうしてもチセを失いたくない。そして嫉妬に身を焦がしてしまった相手であるステラをチセの身代わりにして竜の呪いを移し替えようとします。ルツはチセが助かるのであればどのような方法をとってもいいと言う考えなのでエリアスに同調します。
マリエルは木に捕らえられているピュリスを救うため竜の血が欲しい。チセの血でもかまわない。そのためにチセやエリアスにいろいろな話を持ちかけます。
そしてカルタフィルスは失われた腕を再生させるために竜を必要としています。予備として竜の呪いがかかったチセの左腕に目をつけます。ただし、それを行なっているのがカルタフィルスか、ヨセフか、あるいは第三の人物Xか判断がつきません。
このままだとエリアスは成長しません。マリエルはピュリスを救えず、カルタフィルスは二重人格か三重人格で、腕を再生できずにもがき苦しみます。みんながみんな煮詰まってしまっています。次の9巻ではこの関係が爆発することになるでしょう。
他にも7巻でチセに杖を渡してくれた人物はだれなのか、チセにかかっている3つの呪いの真相、とくに母親との関係などなど伏線が色々と隠れているようです。早くも次の巻が読みたくなりました。おすすめです!
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ご参考になりましたら幸いです。