【感想】『あげくの果てのカノン(3)』米代恭 きっとこの恋は実らない。だけど、どうにもできないほど好き……。【ネタバレ漫画レビュー】
『あげくの果てのカノン』3巻出ました!
超話題作で、かなりすごい作品です。SFで、しかも不倫もので、なんだかトンデモナイお話になってきました。
北海道への不倫逃避行の末、二人は一体どうなるのでしょう?戦い、負傷してどんどん変化していく宗介、ストーカーのように宗介を好きなかのんちゃん、かのんちゃんが好きな弟のヒロくん、そして宗介の妻である初穂。 4人の恋愛感情と思惑が入り乱れて目が離せません。めちゃくちゃにオススメです!
超話題作! 1集、発売直後に緊急重版、4刷りめ! 異色のSF・ラブスト-リー!
日常は崩れゆく。
世界は悪化の一途。
恋心はまっすぐに、狂ったまま、重さを増していく。
この世界を救うヒーロー境と、彼に8年間片想いをよせる高月(こうづき)。
ふたりは
この“不道徳な恋”を誰も知ることのない北海道へと
エスケープするが…
不倫地獄のループを断ち切るため、妻は…!?世界の緊迫と、個人の切実さが
はじけ飛ぶ
大注目、不倫SF、第三集!
以下、ネタバレ有りです。
ゼリーと呼ばれる生命体が人間に襲ってくる世界。東京はゼリー襲来以降、ずっと雨が降りっぱなしです。SLC(異星生物対策委員会)がゼリーとの戦闘を行っています。
境宗介はSLC特務隊員で、ゼリーとの戦闘を行っています。一般市民にも大人気でヒーロー的な存在です。SLC特務隊員は傷ついた体をゼリーで修繕しています。決して死にませんが、修繕するたびに肉体と一緒に記憶や人格も変わっていきます。
高月かのんは境宗介のことが高校生の頃から好きで、卒業後は宗介のファンを超えてストーカーのようになってしまっています。宗介の行動を読みまくって現れそうなケーキ屋さんでアルバイトをはじます。そして8年ぶりにかのんちゃんは宗介に再開します。マジキチですね。
かのんちゃんは他の人が見たらドン引きするぐらい宗介のことが好き。ストーカーとかマニアな感じです。8年ぶりに宗介と再開して、その上で会話もできてかのんちゃんは有頂天になります。
宗介は戦って傷つくたびに修繕を行います。修繕は敵であるゼリーの力を使っているようです。肉体を修繕するたび記憶や人格が少しずつ変わっていきます。幸せな夫婦生活を送っているように思えた宗介はかのんちゃんにアプローチしていきます。
そしてSLCで宗介とカノンはデートします。しかしその時にSLCで実験で使っているはずのゼリーが脱走して宗介はとんでもない傷を負います。かのんちゃんは宗介が生きていることを知って、喜びます。たとえどれほど宗介が変わろうとも。
「……俺は、姉ちゃんが好き。」
宗介と連絡が取れなくなったかのんちゃんは落ち込みます。弟のヒロくんはそんな姉のかのんに告白します。てもヒロくんの心はかのんちゃんには届きません。
宗介の妻である初穂はSLC研究員であり、宗介のためにすばらしい業績をあげます。まわりには理想のカップルだと思われています。しかし、内面では宗介がどんどん昔と変わり、かのんに心を奪われていることに我慢できません。
かのんに直接会って釘をさします。あげくに宗介の心を試すようなことをします。まあ、わざわざ好きな相手のところに行くように仕向けて、それで自分への愛を確かめるって恋愛としては悪い作戦だよね。
初穂はやっぱりプライドが高いのか、変わり続ける宗介を受け入れられないのか、なかなか素直になれません。2回SLCのゼリーが脱走して大変な被害がでたのも初穂が宗介を呼び戻すため。初穂も全然まわりの迷惑を考えてません。
「もう……
全部捨てて逃げちゃおうか。」
宗介はかのんちゃんと逃避行します。仕事もSLCも妻も全て捨ててふるさとである北海道へ逃げます。
「不倫旅行中ですか?」
→はい正解!
北海道でかのんちゃんは宗介のおさななじみにずばっ、とつっこまれます。
でも二人が何かをする前にゼリーの脱走があり、宗介はすぐにSLCに呼び戻されます。二人はすべてをすてて北海道に来たつもりでいても、実際はSLCに行動を全部把握されていたのです。
かのんちゃんは自分の宗介に対する恋愛感情が、まわりの全てを壊していることにようやく気付きます。でも、どこにも出口は見えません。
というドロ沼の人間関係。この作品はSFの設定ではありますが、かなり人間関係に深い作品です。
高月かのん ⇔ 境宗介: 不倫
高月ヒロ ⇒ 高月かのん: 姉弟関係(血縁なし)
境初穂 ⇒ 境宗介: 夫婦だけど一方通行
そして境宗介がSLC特務隊員で、修繕でどんどん記憶が消え、人格が変わります。
この作品が読者に問いかけていることって、何でしょう?
人が変化すること、自分って一体なんだ?
ずっと変わらずに好きでいることってなんだ?
宗介の人格は変わります。でも、それって普通の人でもそうですよね。宗介ほどではないにしろ、経験や成長で振る舞い方や好き嫌い、仕草が年を経るごとに変わるっていっぱいありますよね。
じゃあ、どこからどこまでが自分?昔の自分と今の自分は同じなのか別なのか?昔、自分のことを好きになってくれた相手は今も自分のことを好き?人を好きになるってどういうことなんでしょう?
そして宗介はゼリーと合体している人間です。どんなに傷ついても修繕できます。腕が切れても、たとえ頭が切れても、生き続けて修繕することができます。でも、それって本当に人間といえるのでしょうか。
自己同一性とかアイデンティティって言ってもいいと思いますが、 現代のように異常に変化の早い社会では人のアイデンティティって案外もろいものなのかもしれません。社会も人も変わり続け、適応していくことを求めます。自分たちはどんどん新しいことを取り入れていきます。適応できなければ社会的な価値は下がります。しかし適応することで、自分は自分として変わらない部分を保っていられるのでしょうか?
登場人物のそれぞれの人間関係について考えてみました。
高月かのん ⇔ 境宗介:不倫
普通なら、かのんちゃんのストーカー行動を宗介は受け入れられません。でも肉体的にも精神的にも、どんどん変化している宗介にとっては高校の頃から8年間も変わらず好きでいてくれたかのんちゃんは、基準点のような存在です。宗介にとって、かのんちゃんはたとえストーカーであっても、灯台のような人なのです。宗介はかのんちゃんに対して「希望をもってしまう」と思っています。でも不倫関係なので倫理的には許されません。
高月ヒロ ⇒ 高月かのん:姉弟関係(血縁なし)
ある意味一番まともな恋愛関係かもしれません。実際はヒロくんとかのんちゃんとの間に血縁関係はありません。でも、生理的には一番気持ち悪い。なぜなら、普通は家族として一緒に育ったら恋愛感情は生まれないはずです。
多分ヒロくんの、かのんちゃんに対する恋愛感情はずっと前から変わっていないはずです。かのんちゃんが宗介に対する恋愛感情を変えないのと同じ。二人は平行線でいつまでたってもこの恋は実りません。ちなみにかのんちゃんはヒロくんのこと「先輩(宗介)以外の人に好かれたところで、なんの意味もない」 と、かなり無関心状態です。やっぱり、ヒロくんはかわいそう。
境初穂 ⇒ 境宗介:夫婦
夫婦です。宗介は冷めきっていると言っていいかもしれません。初穂は昔の宗介が好き。どんどん変わる宗介を食い止めるために、初穂は研究に没頭します。そして宗介に近づくかのんちゃんを激しく拒絶します。ある意味、一番ありふれた夫婦の形で、一番わかりやすいキャラクターです。既婚ですから法律的には一番強い。でも夫婦関係がすでに壊れてしまっていることを本人が一番認めたくないのです。
しかも初穂は自分の方に向かせるためにゼリーを使います。暴れるゼリーをおさえらえるのは宗介を含む少数の特務隊だけ。そして毎回、宗介は傷を負い修繕され、変化していきます。毎夜、腹を引き裂かれてもすぐ戻ってしまうプロメテウスのように宗介は死ねません。初穂は結果的に自分で宗介がどんどん変化するようにしてしまいます。
みんな、どの方向にも救いがない。
不倫で、家族で、冷めきった夫婦。なのに恋愛感情だけが止まらない。
物語は出口がない方向に向かってどんどん進んでいきます。好きって気持ちが全ての障害を乗り越えることになるのでしょうか。あるいはバッドエンドへ一直線なんでしょうか。いまの段階ではわかりません。
結局、みんなドロドロの恋愛って好きだよね。かなりハートつかまれる作品だと思います。激しくオススメの作品です。
<試し読み>
4巻感想書いています。よろしくお願いいたします。
kaigyou-turezure.hatenablog.jp
完結5巻の感想書いています。
kaigyou-turezure.hatenablog.jp